執筆者 新潟県弁護士会所属 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
近年、高齢化に伴い、認知症となる人も多く、それをめぐる夫婦トラブルも多く発生しています。
認知症によるトラブルを理由として離婚をしたい方も多いと思いますが、そのような離婚請求は認められるでしょうか?
2 認知症配偶者との離婚を認めた長野地裁平成2年9月17日判決
この点、民法770条1項4号は、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」に離婚請求ができるとしています。
妻がアルツハイマー病による認知症となったとして、この民法770条1項4号該当性が争われたのが長野地裁平成2年9月17日判決です。
同判決は、以下のとおり述べ、離婚を認容しています。
「夫妻間の婚姻関係は,妻がアルツハイマー病に(又は同時にパーキンソン病にも。)罹患し,長期間に亘り夫婦間の協力義務を全く果せないでいることなどによつて破綻していることが明らかであり,右一の13ないし15の各事実をも併せて考慮すると,原告の民法770条1項5号に基づく離婚請求はこれを認容するのが相当である(なお,妻の罹患している病気の性質及び前記のとおり妻に対する精神鑑定が禁治産宣告申立事件のためになされたものであることなどの理由により,本件の場合が民法770条1項4号に該当するか否かについては疑問が残るので,同号による離婚請求は認容し難い。)。」
13ないし15の事実としては、原告が離婚後も妻への若干の経済的援助及び面会などすることを考えていること、妻が入所している特別養護老人ホームの費用について離婚後は全額公費負担となること、つまり離婚により妻に生ずる不利益が緩和されることが指摘されています。
このように、民法770条1項4号該当性については、同号該当性判断のための鑑定がないことから否定されています。
同号による離婚はかなり認知症が重い場合でも簡単には認められないことが明らかです。
他方、認知症により妻において夫婦の協力義務を果たすことができないこと、離婚をしても公的負担等により妻の生活に支障がないと考えられることを踏まえ、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」があるとされています。
同判決からは、アルツハイマー病等を理由とする離婚事件では、発症の事実だけではなく、そのことにより夫婦生活にいかなる支障があるのか、離婚をしても配偶者が過酷な状況に陥らないかをポイントとなることが明らかだと思います。
3 民法改正と認知症離婚
ところで、2024年5月に成立し、2年後までに施行されることが予想される改正民法では、770条1項4号が削除されました。
しかし、もともと従来の4号による離婚は簡単には認められず、結局、認知症の症状が生活にもたらす影響、離婚が認知症の配偶者に与える影響を踏まえ、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかで離婚を認めるかどうかが判断されてきたので、実務上大きな変更は生じない可能性があります。
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