執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 セクハラから始まった不倫の法的責任
配偶者のある人と不倫をした場合、慰謝料請求の対象となります。
しかし、特に、社内不倫等においては、上司が部下にその地位を乱用し、不倫にあたる性的関係を持つということもあります。
そのような場合、セクシャルハラスメントとして部下が上司や会社等に損害賠償請求などをすることがありえます。
それとは別に、不倫の慰謝料請求にあたり、慰謝料額が減額されることもあります。
以下、裁判例を見ていきます。
2 セクハラから始まった不倫の法的責任に関する裁判例
東京地裁平成15年11月26日判決は、女性自衛官(二等陸佐)の夫が、女性自衛官からセクハラを受け最終的に性的関係を持つに至った男性自衛官(三等陸佐)に対し不倫による慰謝料請求をした事案について、慰謝料100万円をみとめました。
セクハラの経過は以下のとおりです(Aが女性自衛官、被告が男性自衛官)。
「被告及びAは,平成8年11月13日から伊豆で行われた幹部現地戦術教育に幹部自衛官として参加した。戦術教育終了後,参加者は伊豆長岡温泉に一泊し,夕食を兼ねた懇親会が行われた。懇親会の二次会の席上,Aは,突然被告にチークダンスをするよう誘ってきたが,被告はその申し出を断った。その後,被告とAは何らかの仕事上のことで口論となったため,被告は仕方なく席を外して別室において麻雀をしていたところ,Aが話があるからといって麻雀をしていた部屋から被告を呼び出した。二人は旅館の玄関ロビーで話をしようとしたがソファが塞がっていたため,Aは,被告を旅館の外に連れだし,「他の人に聞かれるから。」と言いながら被告の腕をひっぱり,少し歩いたところで突然被告に2度に亘ってキスをした。」
「その後,Aは,何かに付けて被告に女性として積極的に近づくようになり,平成9年6月27日に行われた駐屯地の科長と班長の懇親会の後には,▽▽の◇◇◇ホテルに被告を誘い飲酒したり,同年10月29日には駐屯地で行われた送別会の二次会であるスナックの洗面所にて,強引に被告にキスを求め,遂に同10年4月9日,中野のホテルで被告とAは男女関係を持つに至った。その後,被告とAは同11年5月4日まで不貞行為を継続した」
このような事実関係を前提に、裁判所は、「被告とAの不貞行為の発端は,Aの女性としての積極的な働きかけが認められ,被告は当初不貞行為には消極的であったと認められること」として慰謝料100万円を認定しました。
なお、女性自衛官夫婦は平成3年結婚で、裁判時点では離婚していません。
1年以上の不倫のケースなので100万円の慰謝料は低い感を受け、セクハラが原因だったことが反映していると思われます。
ただし、セクハラが認められるのが不貞前の段階であり、慰謝料額への影響は限定的だったと思われます。
不倫期間中についても立場の乱用などが認められるようなケースであれば慰謝料額はさらに低くなったと考えられます。
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