罰則付き外出制限の違憲性

さいとうゆたか弁護士

1 罰則付き外出制限は移動の自由を侵害しないか

安倍晋三首相は、15日、参議院決算委員会において、新型コロナに関連し、罰則付きの外出制限について、「どうしても必要な事態が生じる場合は、当然検討されるべきだ」と述べたとのことです。
感染症予防法は以下のとおり定めます。

第三十二条 都道府県知事は、一類感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある建物について、当該感染症のまん延を防止するため必要があると認める場合であって、消毒により難いときは、厚生労働省令で定めるところにより、期間を定めて、当該建物への立入りを制限し、又は禁止することができる。
2 都道府県知事は、前項に規定する措置によっても一類感染症のまん延を防止できない場合であって、緊急の必要があると認められるときに限り、政令で定める基準に従い、当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある建物について封鎖その他当該感染症のまん延の防止のために必要な措置を講ずることができる。
(交通の制限又は遮断)
第三十三条 都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため緊急の必要があると認める場合であって、消毒により難いときは、政令で定める基準に従い、七十二時間以内の期間を定めて、当該感染症の患者がいる場所その他当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある場所の交通を制限し、又は遮断することができる。

このように現行法でも一定の場合にはウイルスに汚染された建物への出入り、患者がいる場所の交通を制限することを認めています。

しかし、今回の罰則付き外出制限は、特定の場所への出入りではなく家を出ること自体を禁止すること、感染者以外の人についても家から出ることを禁止することも内容としていると考えられ、感染症予防法を超える内容を含んでいます。
そこで、憲法22条の定める移動の自由を侵害しないか、問題となります。

2 判例からの検討

この点、心身喪失の状態で重大な他害行為を行った者を強制的に入院等させる法律である医療観察法について、最高裁平成29年12月18日判決が、憲法22条との関係で合憲との判断をしています。
移動の自由の強度の制限がどのような場合に合憲とされるかを考える上で重要な判断と思いますので紹介します。

同判決は、「医療観察法は,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し,その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより,継続的かつ適切な医療並びにその確保のために必要な観察及び指導を行うことによって,その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り,もってその社会復帰を促進することを目的としており(1条1項),この目的は正当なものというべきである。」として、規制の正当な理由を求めています。

次に、同判決は、「医療観察法は,対象者について,「対象行為を行った際の精神障害を改善し,これに伴って同様の行為を行うことなく,社会に復帰することを促進するため,この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」には,入院をさせる又は入院によらない医療を受けさせる旨の決定(42条1項1号,2号)をしなければならない等と規定しているところ,このような処遇は上記目的を達成するため必要かつ合理的なものであり,その要件も上記目的に即した合理的で相当なものと認められる。」として、規制方法が目的達成のために必要かつ合理的だとしています。

その上で、同判決は、「医療観察法の審判手続をみると,刑事手続とは異なり,裁判所が職権によって事実を探知する手続を採用し(24条),審判期日における審判は公開しないとしている(31条3項)。また,原則として,一人の裁判官及び一人の精神保健審判員の合議体で処遇事件を取り扱う(11条1項)こととし,弁護士による付添人の制度を設け(30条),付添人に意見陳述権や資料提出権(25条2項),審判期日への出席権(31条6項),記録又は証拠物の閲覧権(32条2項)等を認め,検察官による申立てに係る処遇事件の審判においては,付添人を付さなければならず(35条),審判期日の開催を原則として必要的とし(39条1項),審判期日では,対象者に対し,供述を強いられることはないことを説明するなどした上で,対象者及び付添人から意見を聴かなければならないとしている(39条3項)。さらに,対象者及び付添人等に抗告権(64条2項),退院の許可又は医療の終了の申立権(50条,55条)を認めるなど,対象者に必要な医療を迅速に実施するとともに,対象者のプライバシーを確保し,円滑な社会復帰を図るため,適正かつ合理的な手続が設けられている。」として、対象者に適正な手続きが保障されているとします。

以上のとおり、最高裁は、規制の正当な目的があること、規制方法が目的達成のために必要かつ合理的であること、適正な手続き保障があることを条件に、医療観察法を合憲としました。

罰則付き外出制限については、新型コロナの予防という目的は正当でしょう。

問題は、規制方法が必要かつ合理的かです。
外出がウイルス感染を悪化させる状況において、任意の手段を尽くしても市民は外出を繰り返してしまうという実態がなければ、罰則付き外出制限という規制方法は必要かつ合理的とは言えないでしょう。
そして、緊急事態宣言時に日本においてかなりの程度市民が感染防止のために協力したことを考えると、仮に罰則付き外出制限において適正な手続きが保障されたとしても、規制の必要性・合理性は認められないと考えます。

政府には憲法に沿った慎重な判断をしてもらいたいと思います。

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