パワーハラスメント、パワハラ

さいとうゆたか弁護士

1 パワーハラスメントの定義

パワーハラスメントについて規定する労働施策総合推進法は、パワーハラスメントについて以下のとおり規定します。

(雇用管理上の措置等) 第30条の2 事業主は、職場において⾏われる優越的な関係を背景とした⾔動であって、業務上必要 かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、 当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要 な措置を講じなければならない。

ここからは、法律上、パワーハラスメントとは、

ⅰ 職場における優越的な関係を背景とした言動であること

ⅱ 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること

ⅲ 労働者の就業環境が害されること

の要件を満たすものであることを言うことが明らかです。

同法上のパワーハラスメントに該当するとただちに損害賠償責任が生ずるわけではありませんが、同法上のパワーハラスメントに該当すると損害賠償責任が認められやすいとはいえるでしょう。

例えば、「お前は病気である」という発言は、文脈次第では、ⅰ、ⅱ、ⅲのすべてを満たす可能性、パワーハラスメントに該当する可能性があると言えるでしょう。

退職強要、人前で怒鳴る、については、具体的内容によってパワーハラスメントに該当する可能性があると考えられます。

2 裁判例に現れたパワーハラスメント

では、裁判の中ではどのような行為がパワーハラスメントに該当するとされてきたでしょうか。

暴行

暴行は原則、違法なパワーハラスメントに該当すると言えるでしょう。

熊本地裁令和4年1月19日判決は、胸倉をつかんだ行為が安全配慮義務違反に該当するとしています。

大阪地裁令和5年12月22日判決は、上司において、部下が座っていた椅子の脚を蹴ったことを不法行為としています。

退職強要

さいたま地裁令和1年6月28日判決は、以下のとおり述べて、合理的理由なく、執拗に退職強要をしていた場合にパワーハラスメントとなり、損害賠償の対象となるとしています。

被告消防本部及び消防署の幹部らによる一連の言動は,原告への退職強要に当たることは明らかであり,職場での隔離や職務を与えないことによる孤立化,不必要かつ過大な要求,さらには,精神的疾患で休職していたことを何ら斟酌せず,むしろそのことに託けて休職前と同様に退職強要を行い,復職後にも職場での隔離等を繰り返していたものであって,その内容や態様,頻度等に照らし,これらの言動に何ら合理性や相当性は認められず,業務上の適正な指導の範囲を明らかに逸脱しており,原告への精神的な攻撃を意図した組織的かつ継続的なパワーハラスメントに当たるといわなければならない。

ですから、「会社に残るか去るか」という言動が仮にあったとして、それだけで違法とは言いにくいかもしれませんが、それが合理性のないものであり、かつ執拗なものであれば、パワーハラスメントとして違法評価される可能性はあります。

侮辱的な発言

それ自体、侮辱的な発言があれば、文脈は関係なく、違法なパワーハラスンメントと評価されることがありえます。

東京地裁平成30年8月15日判決は、人前で「寄生虫」と叱責したことについて、「原告に対し,他の従業員の前で「寄生虫」という表現を用いて叱責している(上記1(3)ウ)ところ,花輪の発注ミス自体は,メールの確認が不十分であったという原告の過失によるものとはいえ,被告代表者が,他の従業員の前で「寄生虫」という侮辱的な表現をもって注意をすることは,適切な指導範囲を超えたものと言わざるを得」ないとして、損害額算定の上で考慮されるとしました。

福岡地裁令和4年3月1日判決は、「経営会議及び中間業績報告の会議において,原告に対し,馬鹿,無能,サラリーマン根性丸出し,会社の経営を考えない,会社の金を横領した者より始末が悪い,と繰り返し発言(以下「本件各発言」という。)し,「呪い殺してやる」などと発言したことは,社会通念上許容される範囲を逸脱し,違法というべきである」としています。

熊本地裁令和4年1月19日判決は、「お前のようなやつは殺してやりたい」との発言について、安全配慮義務違反に該当するとしています。

大阪地裁令和5年12月22日判決は、上司が、会社における業務の進め方等に関し、「アホ」「ボケ」「辞めさせたる5 ぞ」「今期赤字ならどうなるかわかっているやろな」といった言動を日常的に繰り返し行っていたこと、新入社員の目の前で、 「こいつらは無能な管理職だ。こんな奴らに教育されて可哀そうだ。これくらいのことができないのは本当に無能だ。」と言ったことについて不法行為に該当するとしています。

それ自体侮辱的とは言えない発言

他方、叱責しただけでは損害賠償請求の対象とはならないとする裁判例も多くあります。

上記福岡地裁令和4年3月1日判決は、「株式会社Hとの取引を止めるくらいの覚悟で交渉して来い」,「お前たち,来期はないぞ」,「(平成31年3月までに)死ぬ気でやれ」,「もしそれまでに(改善の)目途がつかなかったら辞めてもらうぞ」「退職金も出ないぞ」などという発言については、会社の業績が悪化し,被告において業務指導ないし叱咤激励を必要とする状況にあったことからすると,経営状況を改善するために強い気概を持って交渉に臨むべきである旨を示したものにとどまり,業務上の必要性を超えて原告の人格を否定するものとまでいうことはできないとして、損害賠償責任を認めませんでした。

ですから、人前で怒鳴られるなどしたということについては、その内容が侮辱的なものか、業務上の注意として必要な範囲を超え人格を否定するようなものかどうかがキーになると思われます。

権利行使を抑制する発言

大阪地裁令和5年12月22日判決は、上司が、労働者に対し、会社において利用が認められているフレックスタイム制度や在宅勤務の抑制を示唆する言動をし、また、会社の規定で認められている宿泊費の定額精算を認めず、実費で精算すべきであると述べたことを不法行為であるとしました。

3 直接行為者ではない者の義務違反

直接、違法なパワーハラスメント行為をしたわけではない者であっても、パワーハラスメントを防止すべき立場にある者が防止のために必要な措置をとらなかった場合、安全配慮義務違反と評価されることになります。

熊本地裁令和4年1月19日判決は、パワーハラスメントを防止すべき立場にある者が、胸倉をつかむ暴行がされているのを黙認放置していたことについて安全配慮義務違反に該当するとしています。

4 パワーハラスメントとまでは評価されない行為と賠償責任

管理職の叱責等がパワーハラスンメントとまでは評価されない場合でも、叱責等により職場の雰囲気が悪くなり、その結果労働者が管理職への質問等もできないようになり、追い詰められ、自殺等に至った場合、賠償責任が生ずる可能性があります。

新潟地裁令和4年11月24日判決は、上司には不法行為とまで評価されるほどのパワーハラスメントがあるとは認められないとしました。

他方、判決は、

ⅰ 当該職場では上司が部下に厳しい対応を取っており、そのため職場の会話が少なかった、

ⅱ 被災労働者は、初めて担当する業務について上司に質問等しなければ適切にこなすことが困難であったが、ⅰの状況のため質問などを行うことができず、業務を期限までに終了させることができない状況に追い込まれた、

という事実関係を前提に、上司が業務の遂行状況などについて積極的に確認するなどのことを行わなかったことを注意義務違反としました。

このように、必ずしも、パワーハラスメント自体が不法行為とまでは言えない場合でも、事後の措置も含めて注意義務違反として評価されることはありえます。

5 パワハラと労災、公務災害

パワハラが原因となり精神疾患となった場合、労災や公務災害が認められることもありえます。

以下のような場合は労災等の認定の可能性が高いと言えます。労災等が認定されるべきなのは以下の場合には限られません。

・上司等から治療を要する程度の身体的攻撃を受けた。

・上司等から暴行等の身体的攻撃を反復継続して受けた。

・上司等から、人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃を執拗に受けた。

・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、社会通念を逸脱する精神的攻撃を執拗に受けた。

・業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求

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