岩手県の教育委員会が県外転入生に登校自粛要請をした件について

1 岩手県の教育委員会が県外転入生に登校自粛要請をしたとの報道

報道によると、岩手県内の4市町村の教育委員会が、新型コロナウイルスの感染者の多い県外からの転入生について2週間の登校自粛を要請していたとのことです。

以下、法的な問題を検討します。

2 登校自粛と法律の規定

学校側が生徒の登校を拒否できる規定としては、まず、「校長は、感染症にかかつており、かかつている疑いがあり、又はかかるおそれのある児童生徒等があるときは、政令で定めるところにより、出席を停止させることができる。」と規定する学校保健安全法19条があります。

同条項の「感染症に・・・かかっている疑いがあり」との要件に該当するかどうかですが、感染が多いとされている地域でも抗体陽性率からして感染者はごく一部の人であり、そうであれば県外転入生について「感染症に・・・かかっている疑いがあり」とするのは無理があるということになりそうです。

また、学校教育法は以下のとおり定めます。

「第三十五条 市町村の教育委員会は、次に掲げる行為の一又は二以上を繰り返し行う等性行不良であつて他の児童の教育に妨げがあると認める児童があるときは、その保護者に対して、児童の出席停止を命ずることができる。
一 他の児童に傷害、心身の苦痛又は財産上の損失を与える行為
二 職員に傷害又は心身の苦痛を与える行為
三 施設又は設備を損壊する行為
四 授業その他の教育活動の実施を妨げる行為」
  これらは生徒に非違行為があることを前提とする規定ですから、やはり県外転入生の登校拒否の根拠とはなりえません。
  このとおり、今回の自粛要請は、出席停止をなしえないケースについて登校自粛を求めたものと考えられます。
  学校と生徒という立場の違いから、登校自粛を求められた場合拒否することが事実上困難であると考えられ、今回の登校自粛については違法性があるという評価も可能でしょう。
  極力新型コロナウイルス感染者を発生させたくないという教育委員会の懸念も理解できなくはありません。
  しかし、教育を受ける権利という憲法上の権利への配慮もないがしろにされてはならないものです。
  いじめが発生することも懸念されたとされていますが、そうであれば例えば親が犯罪を犯した子どもはいじめられがちだと言って登校自粛を求めるのでしょうか?
  いじめられやすい子どもがいても、いじめを発生しないよう注意深く見守るのが学校の役割のはずです。
  今回の登校自粛は問題のあるものと言わざるを得ません。

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