「俺コロナ」発言で実刑判決は妥当か?

さいとうゆたか弁護士

1 家電量販店で「俺コロナ」と発言した男に懲役10月の実刑判決

 

6月26日、名古屋地裁は、家電量販店で「俺コロナ」という発言をした男について、懲役10か月の実刑判決を言い渡したとのことです。

言葉だけで実刑というのは重すぎるように思う方もいらっしゃると思いますが、この量刑は妥当なのでしょうか?

2 威力業務妨害罪における量刑

 

あいちトリエンナーレに関し、美術館に火をつけるなどとのファックスを送信した件についての名古屋地裁令和1年11月14日判決は、以下のとおり述べ、被告人を懲役1年6か月、執行猶予3年に言い渡しています。

「本件犯行は,ガソリンを用いた放火により多数の死傷者が出た事件の発生から間もない時期に,来館者の多い美術館に宛てて,同様の事件をほのめかす内容の書面を送付したものであって,同書面を閲読した者に強い恐怖心を抱かせるものといえるから,その点で悪質である。」
「対応に追われた関係者が被告人の厳重処罰を望むのも当然である。」
「そうすると,被告人の刑事責任を軽く見ることはできないが,被告人が事実を認めて反省の態度を示すとともに,謝罪の意を示していること,30年以上前の過失犯による罰金前科以外に前科がないことなど,被告人のために酌むべき事情も認められるので,被告人に主文の刑を科した上でその執行を猶予するのが相当であると判断した。」

会社にダイナマイトを仕掛けた旨の電話をしたことについての福岡地裁行橋支部令和1年5月22日判決は、以下のとおり述べ、被告人を懲役2年、執行猶予4年に処しています。

「その犯行態様は,ダイナマイトによる爆破予告という,人命のためには業務を後回しにせざるをえない内容を告げる悪質なものである。その結果,被害会社は,従業員の身の安全を最優先して従業員らを避難させ,合計10時間以上にわたる自動車製造工場の稼働停止等,業務の中断を余儀なくされた。1000台を超える自動車の製造不能やそれに伴う物流の混乱等の被害会社が受けた被害は甚大である。被告人は,被害会社の元従業員であって,こうした結果が生じることを十分認識していながら,働けないのは被害会社の待遇に原因があるなどと考えて被害会社に対する恨みを募らせ,被害会社に痛手を与えることでその恨みを晴らすために犯行を続けている。飲酒の上での犯行でもあり,抗不安薬を服用していたことを考慮しても,恨みを晴らす手段として本件犯行を選択し続けたその意思決定は,強い責任非難に値する。」
「以上に述べたことからすると,被告人の刑事責任は,同種事案の中でも相応に重く,相当期間の懲役刑は免れないが,他方で,概ね犯行を認めていること,被害会社に対する不満等を理由に犯行を正当化しようとする姿勢が見受けられ,今後も猛省が求められるものの,一連の刑事手続を経て事の重大さには気づいており,二度と同じ過ちはしない旨供述していること,前科前歴はないこと等の酌むべき事情も認められるので,その懲役刑の執行については猶予し,社会内での更生に期待するのが相当であると判断した。」

 

このように、威力業務妨害の結果がかなり重大な案件であっても執行猶予が付されてきています。

やはり「俺コロナ」発言の被告人については、複数の前科があったことが実刑判決に大きく影響したということができます。

求刑1年6月からするとずいぶん刑が減っていることも考えると、必ずしも不当に重いとは言えないと思います。

 

威力業務妨害罪については、被告人が思うより被害結果が大きくなり、重い刑となることもあるので、注意が必要です。

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