
1 6月30日に優生保護法による強制不妊手術めぐり東京地裁で判決
6月30日、東京地裁で、優生保護法による強制不妊手術をめぐる判決が言い渡されました。
これは仙台地裁判決に続く2例目です。
東京地裁判決における注目点について解説します。
2 東京地裁判決における注目点
優生保護法による強制不妊手術をめぐる仙台地裁令和1年5月28日判決は、以下のとおり述べて、不妊手術の被害者は、強制不妊手術によりリプロダクティブ権を侵害されることとなる、よって被害者は政府に対する賠償請求権を取得するとします。
「人が幸福を追求しようとする権利の重みは,たとえその者が心身にいかなる障がいを背負う場合であっても何ら変わるものではない。子を産み育てるかどうかを意思決定する権利は,これを希望する者にとって幸福の源泉となり得ることなどに鑑みると,人格的生存の根源に関わるものであり,上記の幸福追求権を保障する憲法13条の法意に照らし,人格権の一内容を構成する権利として尊重されるべきものである。」
「しかしながら,旧優生保護法は,優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するなどという理由で不妊手術を強制し,子を産み育てる意思を有していた者にとってその幸福の可能性を一方的に奪い去り,個人の尊厳を踏みにじるものであって,誠に悲惨というほかない。何人にとっても,リプロダクティブ権を奪うことが許されないのはいうまでもなく,本件規定に合理性があるというのは困難である。」
「そうすると,本件規定(引用者注 優生手術に関する規定)は,憲法13条に違反し,無効であるというべきである。」
しかし、損害賠償請求権が20年で消滅するという除斥期間の規定を根拠に請求を認めませんでした。
この点、最高裁も、平成21年4月28日判決において、除斥期間についての規定が適用されない場合について判断しています。
同判決は、「被害者を殺害した加害者が,被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し,そのために相続人はその事実を知ることができず,相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合において,その後相続人が確定した時から6か月内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは,民法160条の法意に照らし,同法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である。」としています。
あくまで同判決は、事例を踏まえて被害者の死亡を知り得ない状況を殊更に作出したという要件を設定していますが、これは殺人事件において死体を隠したという事件を踏まえたものだからであり、除斥期間に例外が認められるのがこのような場合に限られないのは当然です。
同様に、加害者の対応等からして、加害者が除斥期間により利益を受けるのが不当と言えるような場合については除斥期間規定について例外が認められるべきでしょう。
しかし、東京地裁判決は、優生手術について違憲性を認めつつ、除斥期間により賠償請求を認めませんでした。
被害者側にとっての請求の困難さを無視した不当な判決と言えるでしょう。
控訴審での巻き返しを期待します。
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