
報道によると、東京地裁は、公職選挙法違反被告事件で勾留されている河井夫妻について保釈を認めない決定をしたとのことです。
保釈は、起訴された被告人について、被告らの請求により被告人の身柄をとくものです。その際には保証金が定められることになります。
この保釈が認められる条件については、刑事訴訟法89条、90条で規定されています。
刑事訴訟法89条は、必要的保釈と呼ばれるものであり、特定の事由がなければ保釈が認められなければならないとされるものです。
同条は、「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」等以外には保釈をみとめなければならないとしています。
実際上、この罪証隠滅のおそれが認められ、必要的保釈が認められないケースが多いです。
この必要的保釈が認められない場合でも、刑事訴訟法90条の職権保釈が認められることがあります。実際には保釈の中でもこの職権保釈が認められる率が高いです。
刑事訴訟法90条は、「裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活または防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる」としています。
河井夫妻については、現金の配布先リストのデータが消去されたという報道がされています。仮に河井夫妻においてデータ消去などをした事実が認められると、必要的保釈にせよ、職権保釈にせよ、罪証隠滅のおそれがあるとして保釈が認められない決定が正当化される余地があります。
保釈については、以前は第1回公判期日で罪を認めるまではあまり認められないという運用がなされていました。
しかし、昨今は、被告人の公判準備に配慮し、第1回期日前に保釈されるケースも増えていました。
特に河井夫妻の場合、公職選挙法違反被告事件ということで百日裁判という迅速な裁判で審理されることになり、被告人側の迅速な準備が一層必要となります。
ですから、保釈されないと刑事訴訟法90条の「防御の準備上の不利益」が著しいということにもなります。
保釈における罪証隠滅のおそれは、罪証隠滅をしそうな人という要素だけではなく、罪証隠滅の余地があるのかという要素も含めて判断されなければなりません。
検察官が捜査を尽くして起訴した以上、主要な証拠は検察の手元にあるはずであり、罪証隠滅の余地については疑問もありうるところだと思います。
裁判所には、百日裁判という特殊性も踏まえ、決定にあたっては被告人の公判準備にも配慮していただきたいと思います。
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