GoToキャンセル全額補償の法的問題

さいとうゆたか弁護士

GoToキャンセル料政府補償へ

報道によると、GoToトラベルの対象から東京発着の旅行を除外したことについて、政府がキャンセル料を全額補償する方向だとのことです。

しかし、このような方向は法的に極めて大きな問題をはらんでいると思います。

消費者契約法は以下のとおり定めています。

「第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分」
 つまり、キャンセルに伴うキャンセル料について、仮に約款等において〇日前からはキャンセル料は〇円と定めていたとしても、旅館等に生ずべき平均的な損害の額を超える部分については消費者契約法により無効とされるということになるということです。
 そして、旅館の宿泊キャンセルの場合におけるこの平均的損害の計算については、東京地裁平成23年11月17日判決が以下のとおり判断を示しています。
「被控訴人は,本件予約の取消しにより,宿泊料金120万2805円+グラウンド使用料金7万0500円-(食材費33万1411円+光熱費,クリーニング費用及びアメニティー費用計14万4049円)=79万7845円の損害を免れ得なかったものと認められる。」
このように、平均的損害の判断は、各旅館におけるコストというかなり個別的な事情により計算されうることになります。
また、裁判例では、予約・キャンセルがなかったら、その間に他の客が予約をしてくれて売り上げがあがったはずだという逸失利益も平均的損害にカウントされます。
しかし、GoToトラベルについては7月10日になって初めて7月22日スタートと明らかとなりました。東京除外は7月16日に報道されています。つまり、GoToトラベルが適用対象となるとの期待から予約した人はせいぜい7月10日から16日までの6日間に予約した人ということになるでしょう。その場合、7月9日以前に予約が入っていなかった旅館について、7月10日から16日までに予約がなされ、後でそれがキャンセルになったから、本来他の客を入れることができたのに入れることができなかったという逸失利益があると言えるのかも疑問です。
そうすると、旅館のキャンセル料を補填するにしても、GoToトラベルの東京除外を理由としたキャンセル料を全額補償することになると、消費者契約法により認められない部分のキャンセル料まで補填されることになりかねません。
財政難の中、政府が顧客において支払う必要のないキャンセル料まで払うことの正当性がないことは明らかです。

仮に政府の迷走により損失を被った旅館に何らかの支援が必要だとしても、ある程度きめ細やかな基準設定を行う必要があると考えます。

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