ALS患者を安楽死で医師2名逮捕へ

さいとうゆたか弁護士

報道によると、京都府警は、ALS患者に薬物投与をして安楽死させたとして、関わったとされる医師2名を逮捕する方針を固めたとのことです。

刑法第二百二条は、「人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処する。」として被害者から嘱託を受けた上での殺人を通常の殺人罪より軽く処罰するものとしています。薬物を投与して人を死に至らしめる行為についてはこの嘱託殺人罪とされる可能性があります。

これは患者の苦痛を取り除くために積極的に死に至らしめる措置をとる安楽死と呼ばれるものです。

横浜地裁平成7年3月28日判決は、安楽死が許容される要件について以下のとおり述べています。

「本件で起訴の対象となっているような医師による末期患者に対する致死行為が、積極的安楽死として許容されるための要件をまとめてみると、(1)患者が耐えがたい肉体的苦痛に苦しんでいること、(2)患者は死が避けられず、その末期が迫っていること、(3)患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし他に代替手段がないこと、(4)生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること、ということになる。」

1及び3の要件がない場合に安楽死の実質的必要があるとは思われません。
生命はそれぞれの人のものであり、生命をどうするかの決定権はそれぞれの人にあると思われるので4の要件も必須でしょう(嘱託殺人のケースではこの要件を満たすことは多いでしょうが、あくまで同意は明示のものでなければなりません)。
問題は2の要件だと思います。
末期が迫っていないものの、耐え難い苦痛がある場合、患者は長らく耐え難い苦痛を強いられることになります。患者にそこから逃れる権利はないのか、本当に2の要件が必須か、真摯に検討がなされるべきでしょう。

いずれにせよ、横浜地裁の基準が司法で確定したものとまでは言えないでしょうが、それでも安楽死に関わったとされる医師が刑事責任を問われるかどうかについては、この基準に該当するかどうかが大きく影響するでしょう。

なお、横浜地裁判決では医師には懲役2年執行猶予2年の判決が言い渡されています。
嘱託殺人のケースではおおむね同じような量刑で執行猶予がつけられるケースが多いようであり、今回のケースで仮に有罪判決となるとしても執行猶予となる可能性が高いように思います。

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