緊急避妊薬と憲法

さいとうゆたか弁護士

「おはよう日本」で、緊急避妊薬を薬局で購入できるようにしようという運動が取り上げられたことをきっかけに、SNS上で緊急避妊薬についての議論がなされています。

この緊急避妊の問題は妊娠・出産というリプロダクションに関わるものです。

このリプロダクションについては憲法上の権利が認められるべきです。

松井茂記「日本国憲法第2版」524頁以下は、「アメリカでは妊娠中絶の権利をきっかけとして一定の家族やリプロダクションに関する自由が『自律権』として認められるようになっており、日本でもこれを『自己決定』の一内容として13条の幸福追求権から導こうという考え方が有力に主張されている。しかし、そこでいわれる家族の形成・維持に関わる自己決定権とリプロダクションに関わる自己決定権は、日本ではこの24条の保障するところと考えるべきである」としているところです。

優生保護法に基づく優生手術に関する仙台地裁令和1年5月28日判決は、以下のとおり述べ、憲法13条によりリプロダクティブ権憲が認められるとしています。

「法13条は,国民一人ひとりが幸福を追求し,その生きがいが最大限尊重されることによって,それぞれが人格的に生存できることを保障しているところ,前記のとおり,リプロダクティブ権は,子を産み育てることを希望する者にとって幸福の源泉となり得ることなどに鑑みると,人格的生存の根源に関わるものであり,憲法上保障される個人の基本的権利である。それにもかかわらず,旧優生保護法に基づく不妊手術は,不良な子孫の出生を防止するなどという不合理な理由により,子を望む者にとっての幸福を一方的に奪うものである。本件優生手術を受けた者は,もはやその幸福を追求する可能性を奪われて生きがいを失い,一生涯にわたり救いなく心身ともに苦痛を被り続けるのであるから,その権利侵害の程度は,極めて甚大である。」

以上より、憲法13条が根拠か、憲法24条が根拠かはともかく、リプロダクションに関わる権利が憲法上の権利であるとの考えは否定しがたくなっていると思われます。

緊急避妊薬買う権利が憲法上保障されるとして、薬局での購入を規制することは合理的理由がある規制と言えるでしょうか。

この点、緊急避妊薬が認められると易きに流れるという議論もあります。
しかし、弁護士としての経験上、易きに流れているからではなく、男性側からのプレッシャーなどに逆らうことができず避妊できない女性は相当数いると考えられます。
そうであれば、そのような女性との関係では、薬局での購入を認めることで易きに流れるということは言い難く、規制する合理的理由は乏しいように思われます。

是非とも、緊急避妊薬について、憲法上のリプロダクションの権利をベースにした建設的な議論がなされることを祈念します。

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