女性に無断で堕胎をしたとして医師逮捕(不同意堕胎)

さいとうゆたか弁護士

 報道によると、8月9日、岡山県警は、女性の同意を得ないまま妊娠2月の胎児の堕胎をしたとして岡山市北区の医師を逮捕したということです。

 実際にこの医師が堕胎をしたかどうかは不明ですが、優生保護法・母体保護法のために現在では堕胎は極めて稀にしか検挙されない犯罪となっており、聞きなれない犯罪であるため、以下ご説明します。 

 堕胎とは、自然の分娩期に先立って人為的に胎児を母体から分離・排出させることをいいます(大審院明治44年12月8日判決)。
 
 今回は、不同意堕胎が問題となります。

 刑法第二百十五条は、「女子の嘱託を受けないで、又はその承諾を得ないで堕胎させた者は、六月以上七年以下の懲役に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。」としています。

 近年の判決としては、医師が不同意堕胎をした東京地裁平成22年8月9日判決などがあります。
 
 同判決は、「被告人が,妊娠した当時の交際相手に対し,ビタミン剤と称して子宮収縮等の効能のある成分を含有する薬剤等を与えて,同人にこれを数回にわたり服用させた上,水分及び栄養補給を装って子宮収縮等の効能のある薬剤を点滴で投与し,よって,胎児を同人の体外に排出させた不同意堕胎の事案」についての判決です。胎児は妊娠約6週でした。

 この犯行の動機は、「被告人は,妻と入籍する直前に,かねてから交際していた被害者から妊娠を告げられたところ,このまま被害者が子供を産み,それが妻の知るところとなれば,妻と別れることになるとおそれ,本件犯行に及んだ」というものでした。

 判決は、動機が身勝手であること、被告人は医師として生命を尊重すべき立場にあったこと、被告人事実を認めて反省と謝罪の弁を述べていること,勤務先を懲戒解雇されるなど一定の社会的制裁を受けていること,医師免許を返上したい旨述べその可否にかかわらず今後一切医師の業務に携わらない旨誓っていること,これまでに前科前歴はないこと,実母が社会復帰後の被告人を経済的・精神的に支援していく旨述べていることなどを踏まえ、被告人を懲役3年執行猶予5年に処しています。

 懲役3年執行猶予5年は、実刑にならないギリギリのラインです。

 東京地裁判決からは、医師免許返上等があったがためにギリギリ執行猶予となったものの、実刑の可能性もあったことがうかがわれると思います。

 仮に今回逮捕された医師が有罪とされるとしたら、実刑か執行猶予か、裁判所は難しい判断を迫られることになります。

 さいとうゆたか法律事務所トップはこちらです。 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です