雨傘運動リーダー周庭さん(アグネスさん)が香港国家安全維持法(国安法)で逮捕の問題性

さいとうゆたか弁護士

1 周庭さん逮捕の問題性

報道によると、雨傘運動リーダー周庭さん(アグネスさん)が香港国家安全維持法(国安法)で逮捕されたとのことです。

もちろん、香港と日本では法制度が異なります。

しかし、そうはいっても、今回の逮捕は、普遍的に保障されるべき表現の自由を侵害するものとして到底許されないと考えます。

 

2 扇動処罰と表現の自由

NHKの報道は、周庭さんを含む逮捕者について、「警察は10人が、香港や中国の政府に制裁を科すよう、外国に呼びかけたり、こうした活動を支援したりしたとして、外国の勢力と結託して国家の安全に危害を加えた疑いがあるなどとしています。」としています。

仮に外国政府に制裁を科すよう呼びかける活動をしていたとして、それは逮捕等の理由となるのでしょうか?

ここでは、違法とされる行為の呼びかけが表現行為として保護されるかどうかが問題となります。

この点、日本の憲法学界では、違法とされる行為の呼びかけについても、表現の自由を尊重し、その規制については慎重であるべきとする立場が有力です。

例えば、佐藤幸治「日本国憲法論」263頁は、違法行為の呼びかけ処罰規定が表現の自由を侵害するかどうかの判断について、「『明白かつ現在の危険の法理』によるべき」としています。同書は、「明白かつ現在の危険の法理」について、「政府が人を表現行為の故に処罰することができるのは、政府が憲法上防止することのできる実体的害悪がもたらされる明白にして差し迫った危険の存する場合に限られるとするものである(ホームス、ブランダイス裁判官)」として紹介しています。

表現の自由は民主主義の基盤であり、それなくしては民主主義は成り立ちません。
そして、表現の自由は、まさに政治体制に対するものであるときにその意義を最大限に発揮するものであり、政治体制の変革・維持に関わる呼びかけについて安易に規制等がなされてはなりません。
そのような意味で、学界の有力説の言うように、表現行為により差し迫った実体的害悪が生ずることが明らかな場合のみ規制が許されるというべきでしょう。
この点、周庭さんたちの働きかけで国家の安全にただちに支障が生ずるような事態となったとは思われません。
よって、周庭さんたちの逮捕は表現の自由を踏みにじるものであり、到底許されないと考えます。

香港政府・中国政府には、普遍的な価値である表現の自由を尊重し、周庭さんたちを釈放することを求めます。

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