ヌンチャクでの殺人罪は成立するか?

さいとうゆたか弁護士

 報道によると、38歳男性が、ヌンチャクで女性を殴打し、女性が死亡したとして、38歳男性が逮捕されたとのことです。
 女性の死因は、ヌンチャクで額が2センチ程度出血し、その血により窒息したとのことです。
 亡くなられた女性のご冥福をお祈りいたします。

 ところで、ヌンチャクでの殺人事件というのはかなり珍しいものです。
 
 ヌンチャクで人を殺した場合に殺人罪が成立するのかどうか、特に殺意の有無が問題となります。

 ヌンチャクのような鈍器で人を殺した場合について、小林充・香城敏麿「刑事事実認定 上 裁判例の総合的研究」8頁は、以下のとおり述べています。
 
 「撲殺の凶器として考えられる物も、刺殺の場合と同様に多種多様であるが、その場合殺意認定の判断の要素となっているのは、凶器の形状、特にその大きさ及び硬さということである。すなわち、手拳、板切れ等が凶器として用いられたとき、それは殺意の認定につき消極的な資料とされることが多いのに対し(手拳で相手を殴打し死にいたらせた事例はしばしば見受けられるが、実務上はそのほとんどが傷害致死罪として処理されていると思われる。)、凶器が金属製品、石、煉瓦等であるときは、そのことによって殺意が推認されることが多い」

  また、創傷の程度と殺意との関係について、同著5頁は、以下のとおり述べています。
 「創傷の程度は、一般的には加えられた打撃の強さの程度又はその回数の多少を示すと考えられる。したがって、創傷が一般社会通念から見て死の結果を将来する可能性が大きいという程度にまで達していた場合は、加えられた打撃が相当強度に又は多数回にわたってなされたことを推認でき、そのことは殺意認定の情況証拠の一つとなると解される」

 鉄製のヌンチャクで殴打したということになると殺意を認定することは可能とも思われます。しかし、2センチ程度の傷がついただけという点は殺意を否定する要素にもなります。
 
 男性が殺意を否認している状況においては、殺意が否定され、殺人ではなく傷害致死罪で処分される可能性もある事案だと思われます。

 なお、殺人罪の場合、刑法第百九十九条で「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。」とされていますが、傷害致死罪の場合は刑法第二百五条で、「身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。」とされていますので、かなり法定刑が異なり、量刑にも大きな差が出てくることになります。

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