執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 腱板損傷・腱板断裂
腱板とは、筋肉が骨につくところです。
これが断裂したり、損傷する原因は、加齢、交通事故、スポーツ等になります。
腱板損傷・腱板断裂は交通事故で比較的よくみかける傷病です。
同時に争われる頻度の高いものでもあります。
以下、腱板断裂・腱板損傷が争われた交通事故の裁判について概観します。
2 腱板損傷・腱板断裂をめぐる判決
腱板損傷の有無が争われた事件についての横浜地裁平成30年3月15日判決は、以下のとおりの経過において、腱板損傷を認定しています。
ア 横断歩道上を横断していた被害者の身体の右側に加害車両が衝突し,被害者は体の左側から転倒した。被害者は,左腕から左肘を路面に突いたが,被害者の体重を支え切れず,左肩を路面に打ち付けてしまった。
イ 被害者は,A病院に平成26年2月14日から平成26年2月16日までの間,入院しているところ,A病院入院中は,右側の腰や太ももの痛みが強かったため,左肩にも痛みを感じていたものの,左肩の痛みを強く訴えることはなかった。
ウ 退院した翌日,被害者は,左肩の痛みに耐えられずにC外科を受診し,E病院でMRI検査を受けることになった。
エ E病院では,平成26年2月24日にMRI検査が実施され,平成26年3月6日に左肩腱板損傷と診断され,平成26年3月19日入院,平成26年3月20日手術,平成26年3月24日退院となった。
大阪地裁令和3年9月7日判決は、
ア 被害者が事故翌日の受診時から肩の痛みを訴えていたこと
イ 左肩MRI画像により腱板部に輝度変化(T2高信号)が確認され,左肩腱板損傷(部分断裂)と診断されていること
ウ 被害者が訴える自覚症状(左肩痛)は腱板損傷による症状として説明できる上,その症状は本件事故翌日以降,症状固定日(後遺障害診断)時点まで継続的に存在したこと,本件事故以前に同様の症状が発現していたなどの事情は窺われないこと
エ 被害者は自転車に乗車中,左側から加害者車両に衝突されて路上に転倒しているのであり,その転倒の際,乗車体勢のまま右半身から路面に倒れるのではなく,体が回転し背中側から路面に倒れ,その際,左肩部を路面に打ち付けることは十分にあり得ること
から交通事故による腱板損傷を認めました。
このように、交通事故時において被害者が腱板を痛めるような状況だったか、痛みがいつ現れたか、MRI検査の結果腱板損傷として診断されたか等の要素により判断されていることがわかります。
3 腱板断裂そ素因減額
腱板断裂・腱板損傷は加齢等によって生ずることもあります。
また、腱板断裂・腱板損傷は、高齢者においては無症状であることが多いとされます。
そのため、交通事故訴訟の中では、元々腱板損傷があったのではないかとの主張がなされることもあります。
腱板損傷はあるが、交通事故とは関係がないとした判決
東京地裁令和4年10月26日判決は、「肩関節のMRI検査において、棘上筋部分損傷や前方関節唇に亀裂ないし高輝度変化ありとされた上、同年11月8日実施の関節鏡視下腱板修復術及び関節唇修復術の際に関節鏡で肩甲下筋腱、棘上筋腱の断裂や前方関節唇損傷が確認されたことが認められることからすれば、原告X1が上記各損傷等を負ったことは認められる。」として、腱板損傷の存在は認めました。
しかし、
ⅰ 事故態様が、「ブレーキをかけて減速中の被告車両が原告車両に衝突したもの」で、「被告車両の左フロントバンパー等に一見して分かるような損傷の跡はなく、原告車両の損傷箇所は緩衝装置である右フロントバンパーの角に対するものにとどま」ること、被害者は「被告車両が接近してくるのを見たため衝突を予測し、ブレーキを踏んで身構えており、原告車両はほとんど動かなかったこと」から被害者の肩に強い衝撃が加わったと直ちには認め難いこと
ⅱ 被害者が痛み等を訴えて病院を受診したのは本件事故から4日後であり、被害者が本件事故当日や翌日には美容室で業務を行っていたこと
ⅲ レントゲン上明らかな骨傷は認められず、可動域制限はなかったこと、表層筋の捻挫であると指摘されていたこと
ⅳ 改善傾向であった腱板症状の痛みが戻ってきたり、同年9月には保存療法では我慢できないほど痛みが生じるようになるなどしており、外傷性による症状の経過に整合するとは言い難いこと
ⅴ 被害者の年齢(事故当時62歳)
等から、腱板損傷の原因が交通事故であったとは認められないとしました。
腱板損傷について素因減額を認めた判決
素因減額が認められることもあります。
大阪地裁令和5年10月27日判決では、加害者側が、腱板断裂がもともとあったという主張をしています。
判決は、後遺障害等については、事故前から存在していた腱板断裂が拡大悪化したものであり、可動域制限についても筋腹の委縮が著しいこととして、30%の素因減額を認めました。
腱板損傷と事故との因果関係を争ったり、素因減額を求める主張については、従来痛みがなかったこと、腱板損傷が頻発するような年齢ではないこと、事故態様から腱板損傷がありうること等をあげて反論することになります。
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