日産の融資保証1300億円 法的問題は?

さいとうゆたか弁護士

報道によると、日本政策投資銀行が日産自動車に対して行った1800億円の融資のうち1300億円について政府保証がついたということです。
この融資が焦げ付けば国民の税金からその分の支払がなされることになります。
このような融資に法的問題はないでしょうか?

金融機関による杜撰な融資が焦げ付いた場合、担当者が背任罪等に問われることがあります。
政府が融資の保証する場合でも担当者が背任罪に問われる可能性があります。

融資について銀行頭取に特別背任の成立を認めた最高裁平成21年11月9日判決は、以下のとおりの判断を示しています。

「Dグループは,本件各融資に先立つ平成6年3月期において実質倒産状態にあり,グループ各社の経営状況が改善する見込みはなく,既存の貸付金の回収のほとんど唯一の方途と考えられていたG地区の開発事業もその実現可能性に乏しく,仮に実現したとしてもその採算性にも多大の疑問があったことから,既存の貸付金の返済は期待できないばかりか,追加融資は新たな損害を発生させる危険性のある状況にあった。被告人A及び同Bは,そのような状況を認識しつつ,抜本的な方策を講じないまま,実質無担保の本件各追加融資を決定,実行したのであって,上記のような客観性を持った再建・整理計画があったものでもなく,所論の損失極小化目的が明確な形で存在したともいえず,総体としてその融資判断は著しく合理性を欠いたものであり,銀行の取締役として融資に際し求められる債権保全に係る義務に違反したことは明らかである。そして,両被告人には,同義務違反の認識もあったと認められるから,特別背任罪における取締役としての任務違背があったというべきである。」

同最高裁判決は、
ⅰ 融資先が実質倒産状態にあったこと
ⅱ 融資先グループの経営状況が改善する見込みがないこと
ⅲ 実質無担保であったこと
ⅳ 客観性を持った再建・整理計画があったものではないこと
等から特別背任の成立を認めました。

 ニッサンへの融資の政府保証についても、上記の要素を満たす場合、背任罪が成立する可能性はあります(ⅰについては、倒産状態にない企業への融資でも背任を認める裁判例はあるので、必須ではありません)。
 ニッサンの経営状況は改善する見通しがあるのか、それを裏付ける再建計画等はあるのか、1300億円のうちどの程度が担保されるのかが問われるでしょう。 

 政府としては就労の場確保等の公益性があると主張するかもしれません。
 しかし、高松高裁平成17年7月12日判決は、県による融資について、就労の場確保という意味は認めつつ、背任罪の成立を認めています。
 公益性の存在があっても杜撰な融資については背任罪が成立する可能性があります。

 政府としては国民の税金に関わるこの問題について説明責任を果たすべきでしょう。

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