執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 労災と時効・除斥期間
労災による損害賠償訴訟では、従来、時効期間は10年(使用者との関係)、除斥期間は20年とされることが一般的でした。
改正債権法では、従来時効とされてきたものについて、被災者が権利行使できることを知ったときから5年、権利行使できるときから20年になります。従来20年の除斥期間とされてきたものについては、除斥期間ではなく、時効とされています。
いずれにせよ、アスベスト・石綿により肺の疾病を生じた場合については、アスベスト・石綿ばく露から発症まで長年月かかります。
よって、ばく露時から時効・除斥期間をカウントするわけにはいかず、いつから時効・除斥期間をカウントするか問題となります。
2 アスベスト・石綿労災と時効・除斥期間
アスベスト・石綿労災では、通常はじん肺の管理区分が新たに認められたとき等、症状等が新たに見つかった時点から除斥期間をカウントすることになります(これはじん肺訴訟と同じです)。
さいたま地裁平成31年2月15日判決は、アスベスト・石綿ばく露によりじん肺となった患者からの国家賠償訴訟において、「原告が初めて最も重い行政処分である管理2との管理区分決定を受けた昭和63年2月16日が損害の発生時であり,かつ,除斥期間の起算日と認めることが相当である。」として、管理区分決定時を基準に除斥期間をカウントすべきとしています。
時効期間について、例えば神戸地裁平成30年2月14日判決は、労災請求時において石綿・アスベストばく露を原因として疾病にり患したこと等について認識していたとして、労災請求時を時効の起算点としています。
ただし、同判決は、被災者らにおいて会社に被災状況について説明を求めたのに、まともに回答しなかったとして、会社による時効主張を認めませんでした。
同判決は、「以上を総合すると,被告が,積極的に,原告らの権利行使を妨げたなどの事情は認められないものの,上記のとおり,被告の看過できない帰責事由により,原告らの権利行使や時効中断行為が事実上困難になったというべきであり,債権者に債権行使を保障した趣旨を没却するような特段の事情が認められる。したがって,被告が,亡J及び亡Lの損害賠償請求権に関して消滅時効を援用することは,権利の濫用として許されないものというべきである。」としています。
アスベスト・石綿労災については、そもそも職場で舞っていた白い粉が何かわからないと法的手続きの取りようがありません。
ですから、加害者側が事案解明に協力しなかったような場合には加害者側に時効の主張を認めるべきではないでしょう。
よって、神戸地裁判決は妥当と考えます(同判決は大阪高裁令和1年7月19日判決において確定しているところです)。
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弁護士齋藤裕は、20年以上じん肺の裁判に関わり、また、アスベスト労災で逆転認定を勝ち取るなどしてきました。
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