執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
1 貞操権と慰謝料
ウソをついて性行為に応じさせる等した場合、貞操権を侵害したとして慰謝料請求がなされる可能性があります。
貞操権侵害が認められるケースはかなり限定されています。
以下、どのような場合に貞操権侵害とし慰謝料請求が認められるのか、みていきます。
2 裁判例と貞操権侵害
東京地裁平成30年1月19日判決は、以下のとおり述べ、貞操権侵害による慰謝料20万円をみとめています。
「被告の行為は,原告に被告が独身であると思わせ性交渉をもち,その後は妻とは離婚し原告と結婚すると信じさせて交際を継続させたものであって,原告の貞操権(性的自由)を侵害するものであり,不法行為を構成するというべきである。」
長野地裁平成23年12月13日判決は、既婚者と知りつつ交際し、妊娠・出産した女性からの貞操権侵害による慰謝料請求について、男性が婚姻関係が破綻している・結婚をすると虚偽を言って交際を継続したこと、男性から出産をうながす無数の虚偽発言があったこと、その結果女性は中絶をしないで1人での子育てを余儀なくされていたこと等を踏まえ、75万円の慰謝料を認めました。参照:貞操権侵害の慰謝料を認めた判決
東京地裁平成19年8月29日判決は、以下のとおり述べ、貞操権侵害による慰謝料500万円を認めています。
「被告は,原告に対し,自己が既婚者であることを一切告げることなく,将来の結婚を約束した上で,性的関係を伴う交際を長期間続け,2度の妊娠中絶を経て,原告が被告の子を出産するや,Aを介して,原告と別れることを画策し,原告から認知請求訴訟を提起されてはじめて子の認知をするに至ったものであり,原告は,被告が独身であり,いずれ被告と婚姻できるものと信じて,20代後半から30代にかけての女性としての貴重な時期を被告のために捧げた上,被告の子を出産するに至ったものといえるのであって,被告が既婚者であることを秘して原告と性的関係を伴う交際を長期間継続したことは,被告との将来の婚姻を信じて被告との交際を続けた原告に対する関係で,人格権侵害の継続的不法行為を構成するものといわざるを得ない。」
このように、独身ではないのに独身であるとウソをついて、あるいは将来結婚するつもりもないのにするつもりがあるかのように装って性行為をした場合、貞操権侵害による慰謝料が認められる可能性があります。
東京地裁平成30年判決と平成19年判決とでは、かなり慰謝料額が違います。
これは、
・既婚であることを知っていたかどうか
・結婚前提であったかどうか
・交際期間はどの程度か
・妊娠等の有無
・事後対応における誠意
などの要素によると考えられます。
3 既婚者であると知っていた場合と貞操権侵害
貞操権侵害は、原則的には、被害者において、加害者が独身であると信じていた場合にのみ成立します。
ただし、被害者において加害者が結婚していることを知っている場合でも、加害者の悪質性が大きい場合には、貞操権侵害が成立することがあります。
最高裁判所昭和44年9月26日第二小法廷判決は、男性に妻のあることを知りながら情交関係を結んだとしても,情交の動機が主として男性の詐言を信じたことに原因している場合で,男性側の情交関係を結んだ動機,詐言の内容程度及びその内容についての女性の認識等諸般の事情を斟酌し,女性側における動機に内在する不法の程度に比し,男性側における違法性が著しく大きいものと評価できるときには,貞操等の侵害を理由とする女性の男性に対する慰謝料請求は許される、としています。
参照:不倫関係にあった者からの相手方への慰謝料請求がありうるとした判例
また、東京地裁令和3年8月30日判決は、
・被害者は,加害者と最初に性交渉を持ったときは,妻のあることを知っていたとは認められないこと
・その後,妻のあることを知り,それでも性交渉を持ったが、加害者は,被害者に対し,妻と離婚をすることは既に決まっているように述べていたこと(実際には離婚は決まっていない)
・加害者は,被害者が異性経験が少なく若年で思慮不十分であるのにつけこみ,甘い言動等を用いて原告を誘って性交渉を持ったこと
・被害者が交際を止める旨を述べても,様々な言動で交際を継続させたこと
を踏まえ、その性交渉を含む交際を誘起した責任は主として加害者にあり,被害者の側におけるその動機に内在する不法の程度に比し,加害者の側における違法性は,著しく大きいものと評価することができるとして、被害者において加害者に妻があることを知った後の交際についても,その貞操を含む人格権を侵害したことについてその損害(慰謝料)を賠償する義務を負うものとしました。
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