
約款と食事会場からの退場
長野県内のホテルを利用した男性が、ホテルでマスクをしないことで食事会場から退場させられるなどのトラブルになったとして問題となっています。
このホテルは伊東園ホテルズグループのホテルのようですが、伊東園ホテルズグループの約款では、以下のとおり規定されています。
(宿泊契約締結の拒否)
第5条 当館は、次に掲げる場合においては、宿泊契約の締結に応じないことがあります。
(5)宿泊しようとする者が、宿泊に関し、法令の規定、公の秩序もしくは善良の風俗に反する行為をするおそれがあると
認められるとき。
(6)宿泊しようとする者が、当館もしくは当館従業員に対して、暴力、脅迫、恐喝、威圧的な不当要求を行い、あるいは
合理的範囲を超える負担を要求したとき。
(7)宿泊しようとする者が、当館で合理的な理由のない苦情、要求を申し立てた等、当館の平穏な秩序を乱すおそれがあ
ると認められるとき。
(11)当館が定める利用規則の禁止事項に従わないとき。
(18)その他当館が不適当と判断する行為をしたとき。
(当館の契約解除権)
第7条 当館は、次に掲げる場合においては、お引き受けした宿泊期間中といえども、宿泊契約を解除することがあります。
(1)第5条第1項(3)から(18)に該当することとなったとき。
(4)第10条で定めた利用規則に従わないとき。
2 当館は、第5条第2項各号に該当する場合には、お引き受けした宿泊期間中といえども、宿泊契約を解除します。
このように一定の事由が生じたときは宿泊開始後でも契約解除ができるとされています。
利用規則にマスク不着用が定められていればそれだけで解除はできるということになるでしょう。
そうではない場合でも、新型コロナウイルス蔓延防止のために宿泊業においてマスク着用が強く求められる時期ですから、合理的理由の説明なくマスク不着用を続けたのであれば、5条7号の「平穏な秩序を乱すもそれがあると認めるとき」、あるいは、18号の「その他当館が不適当と判断する行為をしたとき」に該当するとして契約解除をなしうると考えられます。そうであれば、食事の提供だけ中止することも許されると思われます。
憲法上の問題
このように約款だけ見るとマスクをしなかった客に食事を提供しなかったことは合法と思われます。
それではそのような扱いは憲法14条の平等条項等に違反し、違法とはならないでしょうか?
この点、プロ野球のチケット販売拒否に関する名古屋高裁平成23年2月17日判決は、以下のとおり述べ、性別な人種等による不当な差別に該当する等の事情がない場合においてチケット販売拒否は違法ではないとしています。
「販売拒否対象者指定は,単に,将来,販売拒否対象1審原告らから,個々の試合の主催者である1審被告12球団及び1審被告Y2に対し,入場券の購入の申込みがされても,同1審被告らは承諾せず,入場を拒否するとの方針を採用し,そのことを事前に伝達したものに過ぎず,現実に申込みのなされた観戦契約の締結を現に拒絶したものではないし,1審原告らが主張しているところによっても,また,本件の全証拠によっても,販売拒否対象者指定の理由が性別や人種等による不当な差別に該当するとか,その他憲法の人権規定の精神に反したり,公序良俗に反するなど,我が国の法秩序上,許容し難いものとして違法と評価すべき事情は何ら認められない。」
ホテルは一般の民間企業でしかないこと、マスクをしない宿泊客の排除は人種や性別等を理由としたものではないことなどの事情がありますので、今回のマスク不着用客を食事会場から排除したことは違法とはならないと考えます。
感染予防とコロナ禍下での宿泊業の持続性を確保するため、ホテルには毅然とした対応が求められると考えます。
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