執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 親権者と未成年者誘拐
離婚前においては夫婦は共同親権を有しています。
しかし、非監護親が監護親のもとから子どもを連れ去った場合、未成年者略取等の犯罪に問われる可能性があります。
2 親権者と未成年者誘拐に関する最高裁判例、裁判例
最高裁平成15年3月18日決定は、「オランダ国籍で日本人の妻と婚姻していた被告人が,平成12年9月25日午前3時15分ころ,別居中の妻が監護養育していた2人の間の長女(当時2歳4か月)を,オランダに連れ去る目的で,長女が妻に付き添われて入院していた山梨県南巨摩郡a町内の病院のベッド上から,両足を引っ張って逆さにつり上げ,脇に抱えて連れ去り,あらかじめ止めておいた自動車に乗せて発進させた」というケースにおいて、「被告人は,共同親権者の1人である別居中の妻のもとで平穏に暮らしていた長女を,外国に連れ去る目的で,入院中の病院から有形力を用いて連れ出し,保護されている環境から引き離して自分の事実的支配下に置いたのであるから,被告人の行為が国外移送略取罪に当たることは明らかである。」として国外移送略取罪の成立を認めました。
その上で、「その態様も悪質であって,被告人が親権者の1人であり,長女を自分の母国に連れ帰ろうとしたものであることを考慮しても,違法性が阻却されるような例外的な場合に当たらない」として違法性も阻却されないとしました。参照:親権者による誘拐を認めた判例
違法性の阻却については、最高裁平成17年12月6日決定が、以下のとおり、2歳の子の連れ去りについて未成年者略取罪が成立するとの判断を示しています。
「本件において,被告人は,離婚係争中の他方親権者であるBの下からCを奪取して自分の手元に置こうとしたものであって,そのような行動に出ることにつき,Cの監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情は認められないから,その行為は,親権者によるものであるとしても,正当なものということはできない。また,本件の行為態様が粗暴で強引なものであること,Cが自分の生活環境についての判断・選択の能力が備わっていない2歳の幼児であること,その年齢上,常時監護養育が必要とされるのに,略取後の監護養育について確たる見通しがあったとも認め難いことなどに徴すると,家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるものと評することもできない。以上によれば,本件行為につき,違法性が阻却されるべき事情は認められないのであり,未成年者略取罪の成立を認めた原判断は,正当である。」参照:親権者による2歳の子の誘拐を認めた判例
福岡地裁令和3年8月5日判決は、非監護親において、4歳の子について、面会交流後返すつもりがないのに返すように装い、面会交流後返さなかった事例に関し、未成年者誘拐罪の成立を認めました。
3 親権者と未成年者誘拐に関する基準はどうなっているのか?
以上から、
ⅰ 非監護親が、監護親のもとにいる子どもを連れ出したような場合でも略取の犯罪が成立しうる、
ⅱ 例外的に違法性が阻却されるような場合もあるものの、無理やり連れ去ったような場合、騙して連れ去ったような場合、連れ去りについて特段の必要性がない場合、幼児を監護計画もないまま連れ去ったような場合には違法性も認められやすい
ということになります。
離婚後共同親権を認める改正民法のもとでは、一方の親権者が子どもの住所を勝手に移すのは原則違法ですから、未成年者誘拐罪が成立しやすくなる可能性もあります。
また、未成年者誘拐罪が成立するのは就学前の子が中心です。
お子様を取り戻したいときは弁護士に依頼し、子の引き渡しの審判や仮処分の手続きをすべきことになります。
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