「お母さん食堂」署名活動と憲法の平等原則

さいとうゆたか弁護士

1 「お母さん食堂」をめぐる問題

女子高生らが、ファミリーマートの「お母さん食堂」との名称を変えて欲しいと署名活動を行っていることが話題になっています。

憲法や法律に詳しい弁護士の間でも議論が割れているように、簡単な問題ではなさそうです。

以下、ジェンダー問題の素人として私なりの考えを述べてみたいと思います。

 

2 ジェンダーと性的役割論

まず問題となるのは、「ジェンダー」という概念です。

ジェンダーとは、「男性・女性であることに基づき定められた社会的属性や機会、女性と男性、女児と男児の間における関係性、さらに女性間、男性間における相互関係」であり、「こういった社会的属性や機会、関係性は社会的に構築され、社会化される過程(socialization process)において学習されるもの」です(UN WOMAN 日本事務所サイト)。

このジェンダーは、「一定の背景において女性・または男性として期待され、許容され、評価されることを決定し」、「殆どの社会では、課せられる責任や負うべき活動、資金・資源へのアクセスと支配、意思決定の機会において、女性と男性の間に違いや不平等が存在」します(UN WOMAN 日本事務所サイト)。

このように、ジェンダーとは、「女に生まれるのではない。女になるのだ」というような後天的で社会的な性を指します。

このジェンダーに基づく役割分担が従来強調されてきました。

アメリカで、権威ある軍事学校に女性が入校できなかったという事例もジェンダーに基づく役割分担論が基盤にあるものと言えるでしょう。

3 「お母さん食堂」と性的役割論

お母さん、すなわち女性がご飯を作るべきだというのもジェンダーに基づく役割分担論です。

その役割分担論が女性の家庭外での活躍を妨げてきたことは事実でしょうし、それは現在でも克服されてはいないでしょう。

そのような中で、CM等による発信力のある大企業が、「お母さん食堂」というネーミングを付けることは、女性が食事を作るべきだという、ジェンダーに基づく性的役割論を強化するという評価は十分ありうるでしょう(ここで注意すべきなのは、女性が食事を作るべきだという観念がない世界で、「お母さん食堂」というネーミングをつけても、あまり問題にされないということであり、あくまで現状の社会の状況が問題だということです)。

日産自動車事件の最高裁判決は、「上告会社の就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着するものであり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法九〇条の規定により無効であると解するのが相当である(憲法一四条一項、民法一条ノ二参照)」として、女性であることを理由とした定年差別を憲法14条の問題であるとしました。女性が会社で重要な役割を担い続けることが想定されないという、ジェンダーに基づく差別・役割分担論は、憲法14条との間で緊張関係に立つということです。

女性が食事を作るべき、家庭が主たる職場であるべきという性的役割論も同様に憲法14条との関係で緊張関係を持つ可能性があります。

もちろん、「お母さん食堂」というネーミングをすることが直ちに憲法に違反し、慰謝料が認められるということはありえません。

「お母さん食堂」というネーミングが悪意によるものとは到底思われませんし、世の母親や女性を侮辱するものではないことも当然です。

「お母さん食堂」が、現実には、家事負担の軽減をもたらすものという側面もあります。

しかし、「お母さん食堂」というネーミングをすることの延長線上に、女性が家事を担うという性的役割分担観念の維持強化があり、それは憲法14条との間でも緊張関係を持つことになるということであれば、「お母さん食堂」というネーミングを批判することがおかしいとは言えないと思います。

「お母さん食堂」というネーミングを止めさせる署名に対する批判が多くなされていますが、現状において女性が家事を担うことが多いという実情(男性が主に家事を担う家庭もあるでしょうが、そのことで女性が家事を担う家庭が多い事実は否定できません)、「お母さん食堂」というネーミングがそれを拡大維持する可能性があることに触れない批判はあまり意味がないと思います。

なお、最近は、何かとSNS等で特定企業が攻撃され、その活動が委縮することが増えています。そこで、「お母さん食堂」についての署名活動をとらえて、社会を殺伐とさせるという感覚を持つ人がいても自然だと思います。ですから、署名を応援する人も、あまり過激にならないで、穏やかに応援するという姿勢が必要だと思います。

さいとうゆたか法律事務所トップはこちらです。 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です