
執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 後遺障害と労働能力喪失
後遺障害が残った場合、そのために労働能力が失われたとして逸失利益の賠償が認められることがあります。
他覚所見のないむち打ちに代表される14級の場合、5パーセントの労働能力喪失率がめやすとなります。
しかし、これはあくまで目安です。
14級でもまったく逸失利益が認められないこともあれば、5パーセントを超える労働能力喪失率で逸失利益が認められることもあります。
以下、後遺障害等級14級の場合で、どのような場合に5パーセントを超える労働能力喪失率が認められるのか、みていきます。
2 14級の後遺障害で5パーセント以上の労働能力喪失率が認められるケース
同じ後遺障害であっても、職業によってその職務に与える影響には大小があります。
ですから、職業によって、14級の後遺障害等級でも5パーセントを超える労働能力喪失率が認められることがあります。
歯科医師について5%を超える労働能力喪失を認めた裁判例
甲府地裁平成17年10月12日判決は、眼科医について、「現在も頚部痛,後頭部痛,眼精疲労を感じており,眼科医として手術をしようとすると左手の振戦が現れる。本件事故前は,原告は眼科医として数多くの手術をこなしていたが,本件事故後はこの左手の振戦により手術ができなくなった。そのため原告は手術をあきらめ研究職の眼科医に転向せざるをえなくなった。」として、12級の労働能力喪失率を認めました。
このように、後遺障害の症状が現れる部位を使う職業についていたような場合、5パーセント以上の労働能力喪失率が認められる可能性が出てきます。
産婦人科医について5%を超える労働能力喪失を認めた裁判例
東京地裁平成19年5月28日判決は、頸部疼痛、両上肢痺れで14級の後遺障害等級の認定を受けた産婦人科医について、15%の労働能力喪失を認めました。
同判決は、まず、「後遺障害が労働能力に与える影響の程度は,患者が従事する業務内容等によっても左右されるから,後遺障害による労働能力の喪失率を判断するに当たっては,従事する業務内容も考慮要素とするのが相当な場合がある。」として、職業により労働能力喪失率が異なる可能性を指摘します。
その上で、同判決は、被害者について、「産婦人科医であって,内科的業務のみならず,外科的業務,すなわち,産科領域では帝王切開,婦人科領域では子宮摘出術や卵巣摘出術といった手術に従事していた。産婦人科医という職業上,手術に従事することは避けられず,手術の性質上,頚椎の可動域制限が手術の遂行に影響を及ぼすことが考えられ,現に,原告X1も,下を向くのが厳しく,長時間,手術に従事すると,手の痺れが出てくるなどと述べていることからすると,産婦人科医であることは原告X1の労働能力の喪失率を判断するに当たって考慮すべき事情である。」として産婦人科医であることで労働能力喪失率に影響しうることを認め、最終的には15%の労働能力喪失を認めました。
やはりここでも、後遺障害の症状が現れる部位をよく使う職業については、14級の後遺障害等級でも5%を超える労働能力喪失率が認められうることがわかります。
後遺障害認定されない後遺障害を理由に5%を超える労働能力喪失を認めた裁判例
また、職業との関係とは別に、後遺障害の症状が複数あったり、14級の中でも重いものだったりすると、5パーセントを超える労働能力喪失率が認められる可能性が出てきます。
例えば、神戸地裁平成13年1月17日判決は、以下のとおり、頸・腰に神経症状があって14級に認定された被害者について、左肘に後遺障害認定に至らない程度の運動機能障害が残ったとして、10パーセントの労働能力喪失率を認めているところです。
「本件傷害のうち頸部及び腰部の各症状についてそれぞれ自賠法施行令別表一四級一〇号(局部に神経症状を残すもの)と認定され、右等級認定には至らなかったが、原告には左肘に運動機能障害が残っており左手を満足に使えないこと、杖をつかなければ歩行が困難であること、右手に重いものが持てないこと(原告本人)等といった数々の日常生活上の支障が生じている。」
複数の後遺障害がある場合に14級でも5%を超える労働能力喪失を認めた裁判例
同じ後遺障害等級14級と言っても、1種類の後遺障害しかない場合より複数の後遺障害がある場合の方が5%を超える労働能力喪失が認められやすいと言えます。
神戸地裁平成12年11月20日判決は、ピアノ講師について、以下のとおり述べ、10%の労働能力喪失を認めました。
「頸部捻挫、頸椎不安定症及び右尺骨神経麻痺については、その症状固定後も、肩の凝り、右腕の痛み、しびれ感、握力低下の症状が残ったものと認められるところ、右後遺障害の部位、程度、一四級一〇号の認定を受けたことに職業、性別、年齢等を勘案すると、原告は、右後遺障害により、症状固定時の年齢である三三歳から三四年間に渡りその労働能力を一〇パーセント喪失したものと認めるのが相当である。」
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