執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 既に障害のある人に交通事故で後遺障害が残った場合の逸失利益の扱い
交通事故で後遺障害が残った場合、その程度に応じて逸失利益の賠償請求をなしうる可能性があります。
これは交通事故で労働能力を喪失したことを理由とする賠償ということになります。
そこで、もともと障害がある人については、新たな交通事故前から労働能力が一部失われているので、逸失利益の計算にあたり、もともとの障害につい考慮すべきと考えられます。
これは加重障害と呼ばれる問題です。
交通事故などの事故によりもともと障害があった場合、事故によらず障害があった場合の2つの場合が考えられます。
2 既存障害が後遺障害等級3級以上の場合
既存障害が後遺障害等級3級以上、つまりもともと労働能力が0だった場合、新たに失われる労働能力も0ということで、逸失利益が全く認められない可能性があります。
3 既存障害がある場合の新たな労働能力喪失率
既存障害があっても逸失利益が認められる場合、多くの裁判例では、新たに認定された後遺障害等級に対応した労働能力喪失率−既存の後遺障害等級に対応した労働能力喪失率で労働能力喪失率を計算しています。
しかし、中には、このような計算方法によらないものもあります。
例えば、東京地裁平成14年11月26日判決は、新たに認定された後遺障害等級に対応した労働能力喪失率79%−既存の後遺障害等級に対応した労働能力喪失率45%=34%という事案について、以下のとおり述べ、従来できていた仕事が新たな後遺障害によりできなくなった度合いを考慮し、50パーセントの労働能力喪失率を認定しています。
「原告は,本件事故前は,慢性関節リウマチによる右手関節の機能傷害があったものの,電車で通勤してドイツ語教師として稼働することができたのに,本件事故の結果,これに加えて,左肩関節の機能障害,右手指の機能障害,左鎖骨・肋骨・肩甲骨等の体幹骨の変形障害が残ったため,階段の昇降等が不自由になり,電車による通勤が困難となって,二十数年間勤務していた●△外語学院におけるドイツ語教師の仕事を辞めざるを得なくなったこと等の事情を考慮すると,本件事故を原因とする原告の新たな労働能力喪失の程度は50%と認めるのが相当である。」
このように、交通事故の前後における、業務においてできることの変化によっては、新たに認定された後遺障害等級に対応した労働能力喪失率−既存の後遺障害等級に対応した労働能力喪失率よりも大きな労働能力喪失率が認められることがあるので、注意が必要です。
既存障害が軽微な場合、かなり昔の事故で生じた後遺障害が既存障害とされる場合には、既存障害を無視し、新たな労働能力喪失率がそのまま逸失利益計算のもととされることがあります。逆に、新たな後遺障害が既存障害を超えるものではないとして逸失利益が全否定されることもありえます。
4 既存障害がある場合の逸失利益の計算と基礎収入
既存障害がある場合の逸失利益の計算については、基礎収入を、
ⅰ 現実の収入を基準に計算する
ⅱ 賃金センサスによる金額より一定限度減額した額を基準とする
ⅲ 賃金センサスによる金額を基準に計算する
という方法が考えられます。
ⅰ、ⅱについては、新たに認定された後遺障害等級に対応した労働能力喪失率−既存の後遺障害等級に対応した労働能力喪失率で労働能力喪失率を計算する場合、既存の労働能力喪失を二重に計算することになりかねず、問題があると考えます。ⅰ、ⅱであれば、新たな交通事故による労働能力喪失率をそのまま逸失利益の算定に使うか、東京地裁平成14年判決のように独自に労働能力喪失率を認定すべきでしょう。
ⅲについては、新たに認定された後遺障害等級に対応した労働能力喪失率−既存の後遺障害等級に対応した労働能力喪失率で労働能力喪失率を計算する方法と整合的と言えます。
5 先天的な障害と既存障害
大阪地裁令和5年5月27日判決は、先天的な聴力障害があった被害者について、そのような障害を所与のものとしてこれに対応する能力を身に着けているとして、既存障害として扱わないとしています。
障害者を差別しないという観点から極めて妥当な判断と考えます。
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