執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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目次
1 既存障害と慰謝料
2 既存障害の慰謝料を差し引く処理
6 新潟の交通事故は弁護士齋藤裕(新潟県弁護士会所属)にご相談ください
1 既存障害と慰謝料
交通事故の被害者に、交通事故前から何らかの障害があることがあります。
後遺障害による慰謝料については、通常は後遺障害等級に応じた慰謝料額が認定されます。
それでは、既存障害がある場合、この既存障害はどのように慰謝料に反映されるでしょうか?
裁判例は必ずしも一致しているものではありませんが、主要な処理の仕方をご紹介します。
2 既存障害の慰謝料を差し引く処理
一番多くみられるのが、新たに生じた後遺障害の等級に応じた慰謝料−既存障害の等級に応じた慰謝料との計算をするものです。
京都地裁平成14年6月6日判決は、既存障害等級9級で、交通事故により後遺障害等級1級となった被害者について、慰謝料1800万円を認定しています。
この訴訟で、原告は、「後遺障害等級1級に対応する後遺障害慰謝料から同9級に対応する後遺障害慰謝料を差し引いて算出」したとして後遺障害慰謝料2000万円を請求していました。
同判決は、「本件事故によりAに残存した後遺障害の内容及び程度,同人に本件事故前から存した障害の内容及び程度,症状固定当時のAの年齢や家族構成,その他諸般の事情を考慮し,1800万円をもって,相当な後遺障害慰謝料と認める。」として1800万円を認めています。
年令などの要素で減額された部分はあるにしても(高齢であることで、後遺障害の影響がある年数が少ないため、金額が減額されると考えられます)、ほぼ新たに生じた後遺障害の等級に応じた慰謝料−既存障害の等級に応じた慰謝料との計算をしていると評価できます。
3 素因減額により慰謝料を算定する処理
神戸地裁平成16年8月18日判決は、交通事故による後遺障害5級、既存障害等級8級の事案で、4割の素因減額をし、1400万円×0・6=840万円の慰謝料を認めています。
8級の慰謝料830万円、5級の慰謝料1500万円、差額670万円ですから、既存障害の慰謝料を差し引く処理よりすこし有利になるということになります。
よって、場合によっては、既存障害の慰謝料を差し引く処理ではなく、素因減額による処理を求めるべきでしょう。
4 総合考慮により慰謝料を算定する処理
さいたま地裁平成25年12月10日判決は、3級の被害者(既存9級)について、被害者「の本件事故についての慰謝料としては,本件事故の態様,負傷状況,介護・生活状況等に照らし,入通院慰謝料は187万円,後遺障害慰謝料は1400万円を認めるのが相当である。」としています。
3級の慰謝料1990万円-9級の慰謝料690万円=1300万円よりも少し増額した金額となります。
このように、重度の後遺障害が残ったケースにおいて、新たに生じた後遺障害の等級に応じた慰謝料−既存障害の等級に応じた慰謝料との計算ではあまりにも金額が低いと思われるケースにおいては、独自慰謝料が補正され、金額の上乗せがされる可能性があります。
5 既存障害を考慮しない場合
既存障害があったとしても、事故当時において、前回事故による労働能力への影響がないと認められるような場合には、既存障害を損害賠償において考慮しないことになります。
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