執筆 新潟県弁護士会所属 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 労災による傷病の二次的精神疾患
業務により生じた傷病の程度等によっては、そのストレスでさらに精神疾患に罹患することがあります。
厚生労働省の作成する業務による心理的負荷評価表では、業務上の疾病により、
「長期間(おおむね2か月以上)の入院を要する、又は労災の障害年金に該当する若しくは原職への復帰ができなくなる後遺障害を残すような業務上の病気やケガをした」
「業務上の傷病により6か月を超えて療養中の者について、当該傷病により社会復帰が困難な状況にあった、死の恐怖や強い苦痛が生じた」
場合に心理的負荷が強とされています。参照:労災についての心理的負荷表
ですから、業務上傷病により生じた二次的精神疾患についても、上記の要件を満たす場合、満たさないとしてもその他の要素もあわせて心理的負荷が強と評価される場合、二次的精神疾患も業務上災害として労災保険が支給されることになります。
2 二次的精神疾患(適応障害と労災)についての裁判例
名古屋高裁令和3年4月28日判決は、労災により左目を負傷し、適応障害となった件について、左目の傷害が原因となった二次的精神疾患として労災認定をしています。
同判決は、
・被災労働者が,以前のような仕事を続けることは到底不可能になるような左眼の負傷をしたこと
・被災労働者は,適応障害を発病した平成26年10月29日当時も療養の過程にあり,左眼矯正視力も同年4月17日の0.02から同年8月28日には30cm手動弁まで悪化していたこと
・そのため、その後の症状固定時には障害等級8級1号(一眼が失明し,又は一眼の視力が0.02以下になったもの)に該当するような重い後遺障害を残すことになると予想することができたこと
・上記当時,左眼の角膜内皮障害による角膜混濁が増悪して,眼内の状態が非常に悪くなり,医師にも違和感を訴えるなどしていたとみられること
・医師にも複数回の手術を受けても左眼の視力が改善しないため不安を覚えるようになった旨訴えていたこと
からすると,「左眼の負傷による は全体として極めて強度なものであったとみるべきである。」として適応障害を労災として認めました。
このように事故等自体が強い心理的負荷をもたらすとは言えない場合であっても、生じた傷害が重い場合にはそれを原因として生じた精神疾患について労災認定されることがあるので、精神疾患については傷病の症状の経過や治療経過も含めた検討が必要となります。
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弁護士齋藤裕は、20年以上じん肺や新潟市民病院医師過労死事件など労災の裁判に関わってきました。
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