執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制は、一定の専門業務について、実際の労働時間に関わらず所定の時間労働したものとみなす制度です。
専門業務の範囲
ここでいう専門業務は、「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要がある」専門業務であり、労基則や厚生労働大臣指定で定めるものです。
厚生労働大臣指定のものとして、
一 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務
二 事業運営において情報処理システム(労働基準法施行規則第二十四条の二の二第二項第二号に規定する情報処理システムをいう。)を活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務
三 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務
四 ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
五 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務
六 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
七 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
八 銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務
九 公認会計士の業務
十 弁護士の業務
十一 建築士の業務
十二 不動産鑑定士の業務
十三 弁理士の業務
十四 税理士の業務
十五 中小企業診断士の業務
があります。参照:厚労省指定の専門業務型裁量労働制対象業種
専門業務型裁量労働制実施の手続き
専門業務型裁量労働制を実施するためには、
ⅰ 事業場の労使協定で業務特定
ⅱ 当該業務の遂行の手段・時間配分の決定等に対して具体的な指示をしないことを定めること
ⅲ 当該業務に従事する労働者については一定時間労働したものとみなすと定めること
ⅳ 労使協定に、対象労働者の健康・福祉の確保のための措置と苦情処理方法を記載すること
ⅴ 労使協定を労基署長に届け出ること
が必要となります。
2 専門業務型裁量労働制の適用を否定した裁判例
専門業務型裁量労働制は、実際の労働時間を基準として労働時間を規制したり、残業手当を支給するという、労働基準法の大原則に対する例外を設定するものであり、その適用は厳格になされます。
例えば、東京地裁平成30年10月24日判決は、ウェブ・バナー広告の制作業務が「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要がある」専門業務に該当するかどうか判断しています。
同判決は、
・もともと当該労働者においてウェブ・デザインに関する専門的な知見や職歴は全く有していなかったこと,
・営業や編集の担当社員より,顧客から聴取した要望等に基づいて,大まかなイメージ・色,キャッチコピーの文言,使用する女性の写真等についての指示が出されていたこと,
・その納期は新規作成の場合であっても5営業日程度であり,原告は,請求対象期間においては,1日当たり10件程度の顧客のウェブ・バナー広告を制作していたこと,
・営業等の担当社員が,顧客から完成許可を得ることにより,顧客への納品が完了するという扱いとなっていた
・依頼者が被告ポータルサイトに広告を掲載する際の料金は1店舗当たり5万円程度にとどまり,ウェブ・バナー広告の制作に使用し得る人件費にも自ずから限界があるといえること
を踏まえ、「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要がある」専門業務に該当することを否定しました。
京都地裁平成23年10月31日判決は、
・専門業務型裁量労働制が適用されるシステム設計の一部しか任されず、日程もタイトで、裁量性が小さいこと
・プログラミングや営業など、専門業務型裁量労働制が適用されない業務もさせられていたこと
から、専門業務該当性を否定しました。参照:専門業務型裁量労働制の適用を否定した判決
このように、労基則等に該当する業務であっても、「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要がある」専門業務に該当すると言えなければ専門業務型裁量労働制は適用されません。
そして、「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要がある」専門業務に該当するかどうかは
ⅰ 当該労働者の専門性
ⅱ 業務遂行に指示等がどの程度なされていたか
ⅲ 仕事の納期等について裁量があったかどうか
等により判断されることになります。
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