対面授業なしは義務不履行? 新型コロナによるリモート授業と学費

さいとうゆたか弁護士

1 対面授業なしは義務不履行として学生が大学を提訴

新型コロナの影響で対面授業がなくなったとして、学生が明星大学に学費の返還を求める訴訟を起こすことになったそうです。
同じような悩みを持つ学生は多くいると思われ、重要な意義を持つ訴訟になるだろうと思います。
新型コロナの影響で対面授業がなくなった場合、学費はどうなるのでしょうか?
以下、検討します。

2 最高裁平成21年12月10日判決

この点、学校が提供すべき教育の内容について、最高裁平成21年12月10日判決は、以下のように判断を示しています。

同判決は、学校側が宣伝していた教育内容が提供されなかったことの是非を巡るものです。

同判決は、以下のとおり述べ、学校側には教育内容設定の裁量があるとします。

学校教育における教育内容等の決定は,当該学校の教育理念,生徒の実情,物的設備・施設の設置状況,教師・職員の配置状況,財政事情等の各学校固有の事情のほか,学校教育に関する諸法令や学習指導要領との適合性,社会情勢等,諸般の事情に照らし,全体としての教育的効果や特定の教育内容等の実施の可能性,相当性,必要性等を総合考慮して行われるものであって,上記決定は,学校教育に関する諸法令や学習指導要領の下において,教育専門家であり当該学校の事情にも精通する学校設置者や教師の裁量にゆだねられるべきものと考えられる。そして,教育内容等については,上記諸般の事情の変化をも踏まえ,その教育的効果等の評価,検討が不断に行われるべきであり,従前の教育内容等に対する評価の変化に応じてこれを変更することについても,学校設置者や教師に裁量が認められるべきものと考えられる。」としています。

その上で、以下のとおり、宣伝をしていた内容が実現されなかった場合において、学校側の裁量逸脱が認められる場合について述べます。

したがって,学校による生徒募集の際に説明,宣伝された教育内容等の一部が変更され,これが実施されなくなったことが,親の期待,信頼を損なう違法なものとして不法行為を構成するのは,当該学校において生徒が受ける教育全体の中での当該教育内容等の位置付け,当該変更の程度,当該変更の必要性,合理性等の事情に照らし,当該変更が,学校設置者や教師に上記のような裁量が認められることを考慮してもなお,社会通念上是認することができないものと認められる場合に限られるというべきである。」

以上の最高裁判決のあげる事情を踏まえると、対面授業を実施しないことについて、

ⅰ 学校の教育理念、広報等との関係で対面授業が重視されるものであるか

ⅱ 対面授業を実施しうるだけの設備や財政があるか

ⅲ 他の大学の状況、地域における流行状況

ⅳ オンライン授業が十分なものであるか、実習等対面でないと実施しにくい授業が多いか

等の事情を考慮して、学校側の裁量を逸脱すると考えられる場合には違法とされる可能性があるということになるでしょう。

いずれにしても、今回提訴されるであろう訴訟は前例がなく、かつ、影響の大きなものですので、原告や代理人には頑張って欲しいと思います。

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