執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 横断歩道を横断中の歩行者と自動車・バイクの交通事故の過失割合(信号機なし)
道路交通法第三十八条は、
・自動車は、横断歩道付近に歩行者がいる場合原則徐行し、歩行者が横断しようとする場合は停止をしなければならない
・横断歩道付近で停止している自動車の側方を通過する際には、その前方に出る前に停止しなければならない
と定めています。参照:道路交通法
このように、横断歩道を渡ろうとする歩行者は法律上強く保護されています。
そのため、東京地裁民事交通訴訟研究会編・別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版」20図では、信号機のない横断歩道を横断中の歩行者と自動車・バイクの交通事故の過失割合について、歩行者の過失0を基本とし、
夜間 ー歩行者に5パーセント加算
幹線道路 ー歩行者に5パーセント加算
直前直後横断・佇立・後退 ー歩行者に5~15パーセント加算
児童・高齢者 ー歩行者に5パーセント減算
幼児・身体障害者等 ー歩行者に10パーセント減算
集団横断 ー歩行者に5パーセント減算
車の著しい過失 ー歩行者に5パーセント減算
車の重過失 ー歩行者に10パーセント減算
歩車道の区別なし ー歩行者に5パーセント減算
というように修正をするとしています。
2 横断歩道を横断中の歩行者と自動車・バイクの交通事故についての裁判例
1で述べたとおり、横断歩道中の歩行者と自動車・バイクの交通事故で歩行者は法的に強く保護されます。
しかし、以下のとおり、例外的に歩行者に過失を認める裁判例もあります。
大阪地裁令和2年9月25日判決は、「本件の証拠上,被告車両の速度や原告の歩行速度は明らかではないが,上記のとおり,原告が横断開始から約1.6メートル地点で被告車両に衝突していることからすると,原告の横断開始時点において,被告車両は横断歩道に相当に接近していたことが明らかであり,原告が左右の安全確認をしていれば,本件事故を回避できたということができる。横断歩道を横断する歩行者は車両との関係で優先するとはいえ(道路交通法38条1項),安全確認を行わず,被告車両の直前で横断を開始した点において,原告にも過失があるといわざるを得ず,10%の過失相殺を行うのが相当である。」としています。
これは、横断歩道開始から衝突までの距離をもとに直前直後横断と認め、5~15パーセントの修正の範囲内で10パーセントの過失相殺をしたものです。
他方、東京地裁平成27年3月26日判決は、以下のとおり、加害者側が歩行者に過失ありとして主張した事情について、歩行者の過失に該当することを否定しており、参考になります。
・加害者は,被害者がCを追い抜いてほぼ全力疾走で横断したことから,直前横断,急な飛び出しによる過失があると主張する。しかし,衝突地点は,被害者が横断を開始した本件横断歩道の北端から約15mの地点であるから,被害者がほぼ全力疾走であったとしても,加害者が通常の注意をすれば,本件横断歩道上を横断している被害者を認識し,本件事故を回避し得たから,この点に関して被害者に過失は認められない。
・加害者は,本件道路が幹線道路であるから,被害者は横断時に注意するべきであったと主張する。しかし,前記のとおり,本件道路は駅前のロータリーの一部であって,車両が高速で走行することを予定した道路ではないから,上記主張は理由がない。
・加害者は,Cは被告車の存在に気付いて走る速度を落としたから,被害者も被告車の存在に容易に気付くことができた旨主張する。しかし,被害者は,本件横断歩道上を横断していた歩行者であるから,仮に加害車の存在に容易に気が付くことができたとしても,被害者に過失があるとはいえない。
・加害者は,本件道路が幹線道路であるから,被害者は横断時に注意するべきであったと主張する。しかし,前記のとおり,本件道路は駅前のロータリーの一部であって,車両が高速で走行することを予定した道路ではないから,上記主張は理由がない。
・加害者は,Cは被告車の存在に気付いて走る速度を落としたから,被害者も被告車の存在に容易に気付くことができた旨主張する。しかし,被害者は,本件横断歩道上を横断していた歩行者であるから,仮に加害車の存在に容易に気が付くことができたとしても,被害者に過失があるとはいえない。
特に、歩行者において自動車が来ることを認識しつつ退避しなくても過失にならないとの点は重要な点です。
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