児童手当の所得制限の違憲性

1 児童手当の所得制限の違憲性

現在、児童手当については、一定以上の所得の人は特例給付として月5000円しか受給できません。

しかも、一部の人については令和4年6月分(10月支給分)からは不支給となります。

このような資力要件を設けることについては、親の収入で子どもを不当に差別するものであるなどの批判がなされているところです。

以下、憲法違反と言えるのかどうか、検討してみます。

 

2 支給要件について

児童手当の支給要件

児童手当については、例えば、児童2人、年収103万以下の配偶者がいる場合、736万円の所得が限度額とされます。

この場合、通常は総収入960万円となるとされています。

ここから年収960万円が基準だとよく言われるようになったと思われます。

令和4年6月分(10月支給分)からは児童2人で所得934万円以上の人について特例給付すら給付されなくなります。

児童手当受給年代における逆転現象

それでは、令和4年6月以降、児童2人、年収103万以下の配偶者を前提とした場合、所得934万円、933万円の場合では、経済的な手取り金額はどの程度違うでしょうか?

所得933万円の場合、児童手当は月額最大3万円で、年36万となります。

稼ぎが多い方が年36万円も手取りが少ないという不条理な結果が生じています。

3 逆進的な支給要件と憲法14条の平等原則

所得制限は憲法違反?

このように、稼げば稼ぐだけ手取りが減るという逆進的な制度は憲法14条の平等主義に反しないでしょうか?

これまで稼げば稼ぐほど手取りが減ることが憲法14条違反だとして起こされた裁判は私の知る限りありません。

大阪高裁平成18年7月20日判決を踏まえた検討

ただし、介護保険料について、低所得層でも介護保険料が徴収されるところ、高所得層については介護保険料額に上限があり、負担能力からすると低所得層の方が負担が重い、それは逆進的な制度であり平等原則に反すると主張された裁判(大阪高裁平成18年7月20日判決)はあります。

同判決は、立法機関において裁量権の逸脱又は濫用があり,経済的弱者に対し,合理的な理由のない差別をしたとはいえない、平等原則違反とはならないとしました。

同判決においては、低所得層について配慮した規定があること等も踏まえ、平等原則違反とはならないとしています。

しかし、児童手当については、特例給付廃止後は、高所得者について配慮した規定はなく、他の制度(健康保険等)においてはむしろ冷遇されています。

そうだとすると、所得736万円を基準とし、それを上回る世帯については支給をしない、934万円以上の場合には特例給付すら給付しない児童手当の制度設計については、裁量権の逸脱濫用があり、憲法14条違反となるのではないかと考えます。

立法経過を踏まえた検討

子ども手当まで

児童手当制度は昭和47年に創設されました。同制度には所得制限がありました。

平成22年、民主党政権下で子ども手当法が成立し、所得制限なしの子ども手当が支給されるようになりました(平成二十二年法律第十九号 平成二十二年度等における子ども手当の支給に関する法律)。

同時に、平成22年度税制改正で「控除から手当へ」の考え方のもと、所得税と住民税の年少扶養控除が廃止され、平成23年分から所得税、平成24年分からは住民税において年少扶養控除が廃止されています。なお、所得1200万円の層では、年少扶養控除廃止により月2万円負担が増えたとされます(令和3年5月13日 参議院内閣委員会における坂本国務大臣発言)。

子ども手当に所得制限をつけなかったこと、年少扶養控除の廃止がセットとなったことについては、参議院 厚生労働委員会 平成22年3月18日において、

「子ども手当は、次代の社会を担う一人一人の子どもの育ちを社会全体で応援するという理念の下、実施するものであり、家計の収入のいかんにかかわらず確実に支給されるよう所得制限を設けないこととした」(山井和則大臣政務官)

「控除というのは、これ御存じのように、絶対金額で幾ら税金が助かるかといったときに、これはもう所得の高い方の方が税率が高いので絶対金額は所得の高い人ほど税金が助かると、こういうことになるわけで、所得の高い人が有利なのがこれは控除ということであります。そこで我々は、控除というのは廃止をする方向にして、手当という形でそれを進めていくという考え方をすれば、本当に手当が必要な方にそれが届くと、これが基本的な考え方であります」(長妻昭国務大臣)

との説明がされています。

子ども手当から児童手当へ、そして所得制限の導入

平成23年4月、子ども手当つなぎ法が成立し、所得制限のない子ども手当が平成23年9月まで支給されることになりました。

平成23年8月4日、民主党、自民党、公明党の三党合意(「子どもに対する手当の制度のあり方について」)が成立し、

・平成24年6月から所得制限を実施すること、

・所得制限基準は夫婦と児童2人世帯で年収960万円程度とすること、

・所得制限世帯に対しては減収に対する必要な税制上、財政上の措置を検討し、平成24年度から所要の措置を講ずること

等が取り決められました(令和4年2月25日参議院予算委員会において、野田聖子国務大臣は、「現在の基準額九百六十万円は平成二十三年の自民党、公明党、民主党による三党合意に基づくものです。」として、この三党合意において960万円との基準が決まったことが、今まで生きていることを認めています)。

三党合意を踏まえ、平成23年8月26日に、平成23年度子ども手当特措法が制定され、同法附則2条では、所得制限を受ける者について税制上又は財政上の措置等について検討を加え、所要の措置を講ずることが規定されました。なお、衆議院 本会議 平成23年8月23日において、田村憲久議員は、「三党合意の中にある年少扶養控除の復活も実現していきたいと思っております。」として、三党合意の「税制上の措置」とは、年少扶養控除のことを指すことを明らかにしています。

平成23年12月20日には、民主党、自民党、公明党の間で「平成24年度以降の子どものための手当等の取扱いについて」という合意が成立し、平成23年度子ども手当特措法附則2条に関し、所得制限された者には児童1人につき5000円を支給することなどが取り決められました。なお、合意の過程で、自民党は所得制限世帯については手当ではなく控除で対応すべきと主張し、公明党は控除も手当も不要と主張しました。参議院 財政金融委員会 平成23年5月2日において、林芳正議員も、「三党合意の一に書いてあります「手当の制度的なあり方」、それからその後で「二十三年度の税制改正法案の扱いについて」とセットになっております。三パラで、「これらを前提として、」ということになっておりますので、当然我々の考え方としては、児童手当に戻した場合には二十三年度の税制改正法案の中で控除は戻していく。その場合に、一年この控除が遅れる部分はありますが、これはまた繰戻し等々で必要があれば対処をしていかなければならないと、こういうふうに考えております」と述べているところです。

これに基づき平成24年3月、子どものための手当の支給に関する法律が制定され、所得制限世帯には「当面」児童1人あたり5000円が支給されることになりました。

なぜ960万円が基準とされたのか?

児童手当に所得制限を設けた点、基準を960万円にした点について、衆議院 厚生労働委員会 平成24年3月21日において、田村(憲)委員は、

所得制限をなぜ設けたのかというお話でありますが、もともと我々が進めてまいりました児童手当法は所得制限がございました。基本的な考え方は、今回の法律の目的にも書かれておりますけれども、一義的には、保護者、家庭が子育てを行う。普遍的な話だと思います、仮に国家がなくったって、やはり家族で子供は育てるわけでありますから。ただし、その中において、やはりいろいろな困難な場合も想定されるであろう。それは、金銭的な部分を考えれば、収入の多い家庭と少ない家庭では、当然、子育てにおいての負担というものは違う。その部分に関して、やはり社会がその部分をしっかりとお支えしようという話でございますから、そういう意味で所得制限というものを設けたということであります。」

「九百六十万円というものの根拠でありますが、これは、三党合意の中でこういう御提案をいただいて九百六十万円というものが進んできておるわけでありまして、詳細は私はよくわかりませんが、ただ、児童手当のときに、多分、当時、九割の方々が手当を受けるというような形になっておりましたので、これを中学生まで広げた場合には大体九百六十万円ぐらいで九割というふうになるのではないのかなというような話は聞いたことはございます。」と説明しています。

衆議院 本会議 平成23年8月23日において公明党の古屋範子議員も、「平成二十四年六月分以降は所得制限を適用することが明記されていますが、その基準については、従来の児童手当と同様、中学校修了までの子供を持つおよそ九割の家庭が受給できるよう、夫婦と児童二人世帯で年収九百六十万円程度とすることが三党合意で確認され、こちらも従来の基準を緩和する方向となっています。」と説明しています。

衆議院 厚生労働委員会 平成23年8月23日において、細川国務大臣も、「児童手当制度では、その支給対象であるゼロ歳から小学校修了までの子供のおおむね九割の者にこの手当が支給される水準として、所得制限というような基準が設定されていたところだというふうに伺っております。具体的には、サラリーマンの専業主婦世帯で子供二人の場合では、年収八百六十万となっております。  一方、三党合意であります子供に対する手当につきましては、支給対象児童が中学生までも対象というふうに拡大をしておりまして、仮に児童手当と同様な考え方でいけば、ゼロ歳から中学校修了までの子供のおおむね九割の者に手当が支給される、そういう水準を試算いたしますと、サラリーマンの専業主婦世帯で子供二人の場合では、年収九百五十四万円になる、こういうことでございます。  こうした点を踏まえまして、三党合意では、所得制限の基準として年収九百六十万程度、夫婦と児童二人世帯とされたのではないかというふうに考えております。」と説明しています。

このように、年収960万円で所得制限をする根拠については、9割の人が支給されるという程度の説明しかされていません。

この点、衆議院 厚生労働委員会 平成23年8月23日において、「所得制限をかけることが正当化されるそのための論理的根拠をどの程度、今回の合意を結ぶに当たって用意したのか、こういうことをもう一度お尋ねをしたいというふうに思います。」と質問された小宮山副大臣は、「その根拠というのは、直接イコールで結びつくかどうかわかりませんが、所得階層別の調査としては、内閣府が平成二十年度に行いました少子化社会対策に関する子育て女性の意識調査というのがございまして、それだと、経済的支援措置を望む人が、世帯収入にかかわらず、七割前後、保育などの子供を預かる事業の拡大を望んでいる割合は、世帯収入にかかわらず、約四割前後です。  また、その希望する経済的支援措置の内容を見ますと、世帯収入の低い階層ほど、児童手当の支給年齢の引き上げですとか、児童手当の金額の引き上げを望む傾向がありまして、世帯収入の高い階層ほど、多子世帯に対する所得税の減税とか、保育料等の必要経費の所得税の減税などを望む傾向があるという調査はございます。」として、「論理的根拠」を説明できませんでした。

「当面」というのはいつまで?

「当面」の意味について、衆議院 厚生労働委員会 平成24年3月21日において、田村(憲)委員は、

「控除が復活をすれば、支給の額の方も考えなきゃいけないという話になってまいりますから、特に、所得制限がかかっている、そんな世帯に関しましては、それに関して速やかにその対応をしなきゃいけない。つまり、今の支給額というものを停止するということも含めて考えなければならないということでございますので、当面というのは、ある意味、その前の、速やかなという、これは本体の方の附則でありますけれども、そちらの方に入っている部分、これと連動してくるわけでありまして、速やかな、言うなれば、検討、結論を得た上で、所要の措置を講じた上で、この当面という部分の支給を停止するということを考えなければならないというふうに考えております。」

として、年少扶養控除等の措置がなされるまでという趣旨の発言をしています。

所得制限がもたらす問題への対応についての議論

以上のとおり、一定以上の所得がある人については、年少扶養控除が廃止され、その見返りだったはずの子ども手当・児童手当も減額されました。

そのため、所得制限世帯について児童手当を支払うか、年少扶養控除を復活させるか、いずれかの方法により対応する必要性が与野党問わず共通に認識されていました。

この点、参議院 社会保障と税の一体改革に関する特別委員会 第7号 平成24年7月25日において、

小見山洋子国務大臣は、

「八百万ぐらいの世帯で今赤が出てしまう部分があるということは、私どもも大変そこのところは何とかしなければいけないと思っていまして、何とか財源を確保をしてもう少し上げたいという話がありましたが、特にマイナスが出てしまうということは本来あってはならないことなので、そこについては何とか手当てができるように、また財源の手当ても含めまして考えていかなければいけないという認識は強く持っております。」

岡田克也国務大臣は、

「三党の中に確かに年少扶養控除についての見直しの議論もありましたから、それはそれで議論しなければなりませんが、そういう形がいいのか、それとも、もう少しそういった結果的に全体の所得が減ってしまった層に対して新しい児童手当を積み増す方がいいのか、そこも含めてやっぱり議論すべきだというふうに思っております。」

野田佳彦総理大臣は、

「三党合意に基づいて、この新児童手当といいますか、名称は児童手当にのっとってつくった制度でありますけれども、先ほどの副総理お話があったとおり、控除のところを見直すのか、その手当のところの厚みを増していくのかも含めて、もうちょっと丁寧に政党間の協議をする必要があると思いますし、我々も党内でよく議論していきたいというふうに思います。」

として、所得制限世帯について手当をする必要性があることを認めています。

同じ会議で、自民党の田村憲久衆議院議員は、「年少扶養控除を是非とも復活をさせていただきたい」と述べています。

このように、年少扶養控除等、所得制限世帯の不利益をカバーする必要性が国会において共通認識となっていました。

ところが、令和3年児童手当法改訂により、一部の所得層の人について特例給付すら支給されなくなりました。

 

所得制限は子育て支援のために必要?

令和4年2月25日参議院予算委員会において、末松信介国務大臣は、「所得制限で捻出した財源を有効に活用することで、私立高校等へ通う年収約五百九十万円未満の世帯への、世帯の生徒への加算拡充、そして二つ目は、授業料以外の教育費を賄う高校生等奨学給付金の創設等を可能としておりまして、低所得者世帯への支援を拡充できたと考えてございます。」、令和3年5月20日参議院内閣委員会において、坂本哲志国務大臣は、(特例給付廃止に関して)「今般の児童手当の見直しは、結婚支援の充実、それから不妊治療の助成の拡充、さらには男性の育児休業の取得促進など総合的な少子化対策を進める中で、年収千二百万円相当以上の方に限り月五千円の特例給付を見直すものということであります」、「一千二百万円以上の方々となります高所得の子育て世帯につきましては、これは恩恵がないということではなくて、幼児教育、保育の無償化の支援を行っております。」と述べており、所得制限で浮いた財源で私学に通う生徒等に対する支援や結婚支援等の子育て支援を拡充できるとしています。

このような理由で所得制限は正当化できるでしょうか?

そもそも、子育て支援の財源を子育て世帯から出さなくてはならない必然性は全くありません。

また、子育て支援の財源を子育て世帯から捻出するとしても、少なくとも逆転現象を生じない形での捻出の仕方はありうるはずであり(税率の調整等)、逆転現象を正当化できないと考えます。

以上より、他の子育て支援の必要性があるということをもって所得制限は正当化できません。

高所得層に支援は不要?

令和3年5月20日参議院内閣委員会において、坂本哲志国務大臣は、

ⅰ 税制において配偶者控除を受けることができる年収の上限が一千百九十五万円となっていることや、保育料の所得判定区分のうち最も高い保育料が適用される区分が年収、世帯年収一千百三十万円以上になっていることも参照にしながら、総合的に勘案した

ⅱ やはり世帯主の年収相当が九百六十万円程度の世帯では一か月で支出が約四十三万円、それから一千二百八十万円程度の世帯では一か月で約五十一万円ということで、八万円の違いがございます。その世帯の中で、水光熱費や家具・家事用品等はこの二つの収入階級で同程度でございますけれども、教育費、それから教養娯楽費、それから交際費を含むその他の消費支出は一千二百八十万円の方が増加傾向にあるというふうなデータが出ております

として、特例給付廃止基準を決めたとします。

ⅰについては、他の制度において支援を受けられなくなる基準に合わせるということになりますが、そうすると諸制度の全体でみると基準の前後で著しい逆転現象が生ずることになります(ある基準を上回ると、一気に、配偶者控除も受けられないし、保育料も高いし、特例給付ももらえない)。

ⅱについては、教育費等を出せる所得層だから支援しなくてもよいということなのでしょうが、本当に1280万円程度の世帯で出せる教育費等支出が十分なものなのかどうか全く明らかではなく(ただ、他の層より多いというだけ)、根拠として不十分だと考えます。

また、令和3年5月20日参議院内閣委員会において、坂本哲志国務大臣は、「児童手当制度につきましては、委員御指摘のとおりに、児童の健やかな成長に資することに加えまして、おっしゃいましたように、家庭等における生活の安定に寄与するという二つの目的を併せ持っております。このため、比較的生活が安定していると考えられる年収千二百万円相当以上の方への特例給付を見直すことが法の目的に反するものとは考えておりません」としています。

しかし、逆転現象により、基準超の人の生活が基準以内の人の生活より安定しなくなる場面があることは不平等であり、「家庭等における生活の安定」という立法目的によっても、そのような不平等が正当化されるとは思われません。

衆議院 厚生労働委員会 平成24年3月21日において、藤田大臣政務官は、「家庭等における生活の安定に寄与するとともに、」との目的規定に関し、「これまでの児童手当法においても、家庭の生活の安定という規定は、児童手当が所得保障施策の一つである、そして同時に、あわせて、単なる低所得者対策ではなくて、児童の養育に伴う家計の経済的負担を社会的に分担することを狙いとするものでございまして、今回の目的規定でも同様の意味で考えているところでございます。」として、「児童の養育に伴う家計の経済的負担を社会的に分担する」との目的も含むとしています。同時に、「保護者の責任と社会の責任ということについてお尋ねでございますけれども、委員もよく御承知のように、民主党が提案をいた「しました子ども手当では、親が子の扶養義務を負っているということを前提としつつ、次代を担う一人一人の子供の育ちを社会全体で応援する、こうした観点から実施したものでございました。 今回の政府案の目的規定では、こうした点をより明確化し、「保護者が子育てについての第一義的責任を有する」との文言を追加したものでございまして、子育てを社会全体で支援していくということを軽視しているものでは決してございません。」ともしています。「児童の養育に伴う家計の経済的負担を社会的に分担する」立法目的の法律において、一定所得層について支援から完全に排除するのは許されないでしょう。

少数派だから支援しなくてもいい?

令和3年5月20日参議院内閣委員会において、坂本哲志国務大臣は、「千二百万相当の収入があるところにつきましては全体の二%であるということも含めて、千二百万相当世帯の特例給付の見直しというのを行った」と述べています。

少数派だから支援しなくても良いといっているようなものであり、人権の考え方とは完全に矛盾すると言わなくてはなりません。

格差解消のため所得制限は必要?

所得制限は格差解消のために必要と言われることもあります。

しかし、所得制限が格差縮小のためにマイナスの機能を果たす、所得制限なしの現物給付により格差解消が可能であることは、つとに専門家の指摘するところですs。

例えば、参議院 国の統治機構に関する調査会 平成27年4月15日において神野直彦教授は、

限定してやると、もらった人ともらっていない人の格差が非常に大きくなって、どんどんバッシングや反論が起きるんですね。更に重要な点は、現金給付だと、ミミッキングと申しますけれど、所得のないふりをするということが発するんですね。ところが、サービス給付だと不正は働きません、ミミッキングは。つまり、幼児のふりをして保育園に入ってみるとか、何というのかな、年寄りのふりをして何か高齢者福祉サービス施設に入ってみても何も面白くも意味もないわけですから、そういう機能は働かないのでミミッキングはありません。  ということで、そういうことを充実した方が、再分配のパラドックスでは、所得制限なしにサービスを提供してあげた方が再分配、つまり財政の再分配機能は上がるというのが常識、常識というか証明されておりますので、私は、教育を含めて、教育とか福祉とかということをなるべく、ただというとなかなか反論が多いので、安い費用でできるようなことをやることが財政の再分配機能、あるいは実質的に格差が少なくなればいいわけですから、格差が縮小していく重要な原因だというふうに考えております。

と述べています。

また、参議院 国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会 平成27年4月15日において、井出英策教授は、

格差を是正するというときに、大きく言って二つの方向があるということが意外と知られておりません。私たちが普通、格差を是正するといいますと、まず所得制限を付けて、そして貧しい人にお金をあげる。これをもって格差が是正できると私たちは考えがちなのではないでしょうか。しかし、実はもう一つ再分配の方法があります。それは何か。所得制限を付けずに、あらゆる人々に対して現物給付を与えるという方法であります。実はこういった再分配の方法があるということを日本の中では余り議論されません。  その中で、しかし、これは二つとも再分配の効果を持つのですが、重要な違いがあります。前者は特定の人々を受益者とし、中間層以上を負担者としてしまうために所得階層間の強い対立を生み、中間層の租税抵抗を生むということであります。一方で、後者はあらゆる人々が受益者となりますので、中間層が低所得層や他の人々を批判する必要がなくなります。  したがいまして、信頼が高い、人々を信頼する国というのは、この所得制限を伴わない現物給付の領域が広いということになります。

と述べています。

参議院 国民生活・経済・社会保障に関する調査会 平成23年2月23日で、阿部彩氏は、「格差の是正の方は負担の方でやればいい、おっしゃるように税制改革でやればいい話であって、給付は普遍的なものというのが北欧を始めヨーロッパ諸国でももう主流な形となりつつある」と述べています

これら識者の発言からして、格差解消のために所得制限が必要ということはないと考えます。

4 あるべき子育て支援

このような逆進性は所得要件を課すと必ず生じてくるものとおもいます。

そうであれば政策論としては所得要件を撤廃するのが正道と考えます。

なお、内閣府政策統括官(経済社会システム担当)が2020年4月に作った資料によると、スウェーデン、デンマーク(18歳を迎えるまで)、イギリス、ドイツ(原則)所得制限はないとのことです。

フランスは所得制限があります。しかし、所得税について、N分N乗方式という、子どもが多いと所得税負担が軽減される方式を取っています。年少扶養控除が廃止された日本とは前提が違います。

衆議院 予算委員会 平成23年2月18日で、井出英策教授は、子ども手当導入に関し、「先進国の中では例外的であった所得制限を撤廃したことは大きな前進である。」として、所得制限が世界的に稀なものであると発言しています。

 

結局、上記資料掲載の国において、所得税において子どもについての配慮がなく、かつ、児童手当について所得制限のある国はないということになりそうです。

社会全体で子育てしようという発想に立つとき、児童手当や子育て支援について所得制限は設けないのが正道であることを示していると思います。

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