
1 発がん性物質曝露によるがん発症と安全配慮義務違反
福井地裁令和3年5月11日判決は、オルトートルイジンという発がん性物質を取り扱う工場の労働者が、これに曝露し、膀胱がんを発症したことについて、使用者に安全配慮義務違反があるとし、賠償責任を認めました。
同判決は、発がん性物質を取り扱う工場で労働し、がんに罹患した場合全体について参考となるものと思われますので、ご紹介します。
2 予見可能性について
安全配慮義務が認められる前提としては予見可能性が必要です。
同判決は、まず、この予見可能性について、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧があればよいとしました。
その上で、SDS(化学物質などを譲渡等する際に、その化学物質の危険性等に関する情報を知らせるための文書)薬品の経皮的曝露による健康障害の記載があったこと、そのSDSが副工場長に送られていたことなどから、予見可能性を肯定しました。
3 結果回避義務違反
予見可能性があることから、使用者には健康被害回避に向けた結果回避義務があります。
同判決は、結果回避義務の具体的内容として、
「従業員が本件薬品に経皮的に曝露しないよう、不浸透性作業服等の着用や、身体に本件薬品が付着した場合の措置についての周知を徹底し、これを従業員に遵守させるべき義務があった」と判断しました。
その上で、このような義務が履行されていなかったとして安全配慮義務違反を認めました。
なお、特定化学物質障害予防規則38条は、
事業者は、第一類物質又は第二類物質を製造し、又は取り扱う作業に労働者を従事させるときは、洗眼、洗身又はうがいの設備、更衣設備及び洗たくのための設備を設けなければならない。
2 事業者は、労働者の身体が第一類物質又は第二類物質により汚染されたときは、速やかに、労働者に身体を洗浄させ、汚染を除去させなければならない。
3 労働者は、前項の身体の洗浄を命じられたときは、その身体を洗浄しなければならない。
と定めています。
同44条は、不浸透性の保護衣の着用等を義務付けています。
この判決における結果回避義務の内容は、特定化学物質障害予防規則の内容に沿ったものとなっています。
これ以外の特定化学物質障害予防規則の条項も含め、同規則が健康被害回避のために設けている条項に違反した場合には結果回避義務違反が認められる可能性があるということになります。
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