引火性の高い物質の取扱いにより生じた火災(労災)と安全配慮義務違反

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 火災・引火の労災と安全配慮義務違反

引火性の高い物質を扱う業務は火災・引火事故の危険が高く、使用者には高度の安全配慮義務が求められます。

この安全配慮義務の違反があったとして損害賠償を命ずる裁判例も多くあります。

以下、いくつかをご紹介します。

なお、建物が火災となり労働者が被災した場合の使用者の責任については、火事・火災と労災をご覧ください。

2 火災・引火の労災についての裁判例

 

長野地裁松本支部平成30年3月28日判決は、引火性の高い物質の近くでガストーチを使ったことで引火事故が発生した事件について、「火元となり得るガストーチを使用する作業と有機溶剤を使用する作業を間仕切りのない隣り合った空間で同時に進めないか,これらを同時に進める場合には,換気装置を準備したり,自然換気の状況を作業員と確認するなどして,ガストーチを使用しても引火しないよう作業環境を整えるべき義務があったといえる。」とした上で、そのような義務の違反があったとして、安全配慮義務違反を認めました。

横浜地裁平成12年1月12日判決は、労災ではなく、被告らにより発生させられた火事により建物が消失した事故について、建物の所有者が損害賠償を請求した事案についての判決ではありますが、「アセチレンガス切断機使用によって生じた溶解塊が、残存塗料に引火したために生じたものであるところ、被告真田は、アセチレンガスによる切断作業を業としている者であるので、アセチレンガス切断機の使用により生ずる溶解塊が他の可燃物に引火し、火災が生じる危険性があることは熟知していたはずであるから、解体対象物件である本件ブースに可燃物が残存しているかどうか綿密に調査し、溶解塊が引火する可能性のある可燃物を全て取り除いた上で、作業に取りかかるか、あるいは、溶解塊が引火する可能性のある可燃物を全て取り除くことが本件ブースの解体作業にとって現実的でない場合には、他の解体方法を選択すべき注意義務を負っているものと解する」として被告らに賠償責任を認めています。

福岡高裁平成9年12月9日判決は、カラーアスファルトタンクローリー車での引火事故について、使用者側について、「カラーアスファルトの配送作業の過程で火気の使用が不可欠である一方で、これが可燃物であって、加熱することによりガスが生じることの知見を有していたのであるから、その引火・爆発の可能性を予見した上、火気の使用を含めた作業手順を策定し、その周知徹底を図る等の方法により、従業員の安全を確保すべき注意義務があった」ものの、そのような作業手順の策定もなかったとして、使用者側の安全配慮義務違反を認めました。

このように、

・引火性の物質のあるところでの火器の使用がなされないよう配慮すべき義務

・火気の使用を行う場合には引火性物質の有無を確認すべき義務

・引火性のある物質がある近辺で火気を使う可能性がある場合には事故が生じないよう作業手順を策定する義務

等が認められ、それらの義務違反がある場合には安全配慮義務違反があるものとして損害賠償責任が生ずることがありえます。

3 引火性のある物質による労災事故で賠償責任を負うべきは誰か?

引火性のある物質がある譲渡事業者から別の譲受事業者に引き渡され、譲受事業者のところで引火事故が発生した場合、誰が責任を負うでしょうか?

東京地裁令和1年5月24日判決は、売り渡されたトランス内に絶縁油等があり、譲受事業者における作業においてそれに引火し、労災事故が発生した場合、譲渡事業者側には安全配慮義務はなく、譲受事業者側において安全配慮義務を負うべきものとしました。

この事件では、譲渡事業者は,譲受事業者に対し,トランス内部には絶縁油等が残留している可能性があることを説明していました。

そして、判決は、

・譲受事業者側において,トランスの解体作業には所要の防止対策を講じない場合にはトランスが爆発する危険性が不可避的に内在することを認識することができたこと

・契約上,本件トランスの解体作業は譲受事業者のみが担当することとされ,譲渡事業者がこの作業を一部でも分担することは合意されておらず,実際の解体作業に当たっても,譲受事業者のみがこれを担当し,譲渡事業者従業員がこれに助力したり協力したりすることはなかった

という事情のものとで、安全配慮義務を負うのは譲受事業者であり、譲渡事業者ではないとしました。

仮に、譲渡事業者において、引火性のある物質が残っていることを伝えない等の事情があれば譲渡事業者も重畳的に賠償責任を負う可能性はあるでしょうが、一義的な賠償責任が譲受事業者側にあるのが一般的だと言えるでしょう。

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