
執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 懲戒解雇・懲戒免職の効力
懲戒解雇は、懲戒処分の一種としてされる解雇です。
懲戒解雇がなされると、再就職が著しく困難となります。
そのため、懲戒解雇の効力については、普通解雇より要件が厳しくなります。
2 懲戒解雇が有効となる場合
懲戒解雇は他の懲戒処分と同様、罪刑法定主義的なルール、一事不再理の原則、適正手続きに従う必要があります。
懲戒解雇と罪刑法定主義的なルール
まず、使用者が懲戒解雇を行う場合、就業規則に懲戒の種別と事由を定めておく必要があります(最高裁フジ興産事件判決)。参照:就業規則の定めのない懲戒処分についての判例
懲戒解雇事由の後に制定等した就業規則規定に基づく懲戒解雇は許されません(事後法の禁止)。
就業規則は周知されないと効力がないので、周知されない就業規則に基づく懲戒解雇は許されないことになります。
京都地裁平成30年10月24日判決では、就業規則の周知性が問題となりましたが、
ⅰ 事務所の店長後方のデスク上に備えられていたこと
ⅱ 人事研修で就業規則の保管場所等について知らされたこと
ⅲ 労働組合の説明会でも就業規則の内容が説明されたこと
ⅳ 社内ホームページに就業規則がアップされていたこと
から周知性を認めました。参照:就業規則の周知性を認めた裁判例
周知性を認めるには、労働者が容易にアクセスできる状態にあり、その状態にあることも知らされていることが必要というべきでしょう。
懲戒解雇と一事不再理の原則
一旦懲戒処分になったのと同じ理由で懲戒解雇とすることはできません。
懲戒解雇と適正手続き
有効な就業規則等において懲戒解雇をなしうる事由、懲戒処分の内容が定められていることが有効な懲戒処分の大前提です。
労働協約や就業規則で決められた手続きが履践されるべきは当然です。
そのような手続きが決められていなくても、懲戒事由を労働者に示し、弁明の機会を確保することは最低限必要と考えられます。
3 懲戒解雇・懲戒免職に関する裁判例
目次
ハラスメントを理由とする懲戒免職を有効とした最高裁令和4年9月13日判決
パワーハラスメントを理由とした懲戒解雇を無効とした高松高裁令和4年5月25日判決
ハラスメントを理由とする懲戒免職を有効とした最高裁令和4年9月13日判決
消防職員が他の職員に対するハラスメント行為を行ったことを理由に懲戒免職処分に付されたことの効力が争われた事案についての福岡地裁令和4年7月29日判決は、
・指導目的があったこと
・訓練やトレーニングで逸脱・過剰となった程度が特段大きいわけではない
・職員に重大な負傷等が生じていない
・従来懲戒処分を受けていない
などの事情を踏まえ、懲戒免職を取り消しました。
しかし、最高裁令和4年9月13日判決は、「本件各行為は、5年を超えて繰り返され、約80件に上るものである。その対象となった消防職員も、約30人と多数であるばかりか、上告人の消防職員全体の人数の半数近くを占める。そして、その内容は、現に刑事罰を科されたものを含む暴行、暴言、極めて卑わいな言動、プライバシーを侵害した上に相手を不安に陥れる言動等、多岐にわたる。」などとして、広島高裁判決を破棄しています。参照:ハラスメントに対する懲戒免職についての判例
このように、
・対象となった行為の性質や影響の程度
・懲戒指針などの定め
・従来対象職員に注意などがされてきたのかどうか
などを踏まえ、懲戒解雇・懲戒免職の効力は慎重に判断されることになります。
パワーハラスメントを理由とした懲戒解雇を無効とした高松高裁令和4年5月25日判決
高松高裁令和4年5月25日判決は、遅刻を理由とする叱責などを理由とする懲戒解雇について、遅刻を理由とする叱責以外の懲戒解雇理由については伝聞しか証拠がなく、遅刻を理由とする叱責についても、以下のとおり述べて、懲戒解雇を無効としました。
「被解雇者が、うつ病による休養加療期間を終えて職場に復帰した状況にあった部下に対し、早出出勤を依頼したにもかかわらず遅刻をしたとして叱責をしたことについては、管理者としての在り方という観点から被解雇者の行為には疑問があると言わざるを得ないものの、被解雇者が部下に対して叱責をしたのは遅刻したという事実に基づくものであった上、当該叱責の際の具体的態様が明らかではないことからすると、当該叱責が業務の適正な範囲を超えていたとまでは認めるに足りない」
他の事例と同様に、懲戒解雇が有効であるためには懲戒解雇事由についての十分な理由が必要ですし、ただ単に不適切というレベルの行為があっただけでは有効な懲戒解雇はなしえないのです。
簿外処理を理由とする懲戒解雇を無効とした裁判例
東京地裁平成29年1月24日判決は、簿外処理等を理由とした懲戒解雇について、労働者が担当になる前から簿外処理が行われてきたとして、懲戒解雇まではできないとしました。参照:簿外処理を理由とした懲戒解雇を無効とした判決
公益通報的な場合に懲戒解雇を無効とした裁判例
東京地裁令和3年3月18日判決は、他の職員が背任をしているとの情報を多数に流布させたとの理由での懲戒解雇を無効としています。
同判決は、まず、かかる行為は就業規則の懲戒事由に外形的に該当するとします。
しかし、かかる行為が公益通報的要素を含むとして、
①通報内容が真実であるか,又は真実と信じるに足りる相当な理由があるか
②通報目的が,不正な利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的でないか
③通報の手段方法が相当であるか
を考慮し、行為の違法性が阻却され、懲戒解雇が無効となる場合があるとします。
その上で、当該事案については、背任が事実とは言えないとしても、背任行為と疑う相当な理由があり、不正の目的はなく、手段も相当であったとして、流布を理由とした懲戒解雇は無効としました。
就業規則上の根拠がないとして懲戒解雇を無効とした裁判例
札幌地裁令和5年4月7日判決は、以下のとおり、就業規則上の根拠がないことを根拠に懲戒解雇を無効としました。
「原告が令和元年就業規則の制定された当時に就労していた苫小牧営業所においては、令和元年就業規則は、所長であった原告が自らの机にしまったままにしていたというのであり、周知性を欠くものといわざるを得ない。」
「そして、使用者は、就業規則を労働者に周知させる義務を負うのであるから(労基法106条1項)、令和元年就業規則が苫小牧営業所の労働者に周知されていたと認められない以上、これに基づく懲戒処分は根拠を欠くものといわざるを得ない。」
「そうすると、本件懲戒解雇につき客観的に合理的な理由があるかや、社会通念上相当であるかについて判断するまでもなく、本件懲戒解雇はその根拠を欠き、無効であるといわざるを得ない。」
このように懲戒解雇を裏付ける有効な就業規則がなければ、懲戒解雇はなしえません。
酒気帯び運転を理由とする懲戒免職を無効とした裁判例
静岡地裁令和7年3月6日判決は、公立小学校の教員が酒気帯びで物損事故を起こしたことについてされた懲戒免職を無効としました。参照:酒気帯びによる懲戒免職を無効とした裁判例
同判決は、教員がフェキソフェナジンを服用後、飲酒し、せん妄状態に陥っていたとして、懲戒免職は無効としました。
飲酒+事故ということになると懲戒解雇や懲戒免職が有効となる傾向がありますが、せん妄状態という、責任能力を問い難い状況での事故であることを踏まえて懲戒免職を無効としたものです。
なお、酒気帯び運転については、極めて重い処分が容認されるのが通常であり、酒気帯びで事故を起こした場合に懲戒解雇や懲戒免職処分が取り消されることはまれです。
例えば、酒気帯びの結果事故を起こしていないものの、水道局職員に対する懲戒免職が有効とされた事例として名古屋地裁平成29年3月30日判決があります。参照:酒気帯び運転で事故を起こしていない場合に懲戒免職を有効とした裁判例
同判決が懲戒免職を有効とした理由は、
ⅰ 本件酒気帯び運転が職務に連続して行われたこと
ⅱ 本件酒気帯び運転の計画性(懇親会で飲酒する予定があるにもかかわらず,当日,車を運転
して出勤したこと等)
ⅲ 本件酒気帯び運転の危険性(基準値(呼気1リットル当たり0.15ミリグラム)の約2倍ものアルコールが検出されていること等)
ⅳ 本件酒気帯び運転後の対応(上司に報告する際,原告の自宅から5分程度の距離に
ある待合せ場所に飲酒のまま車で赴き,本件酒気帯び運転で検挙された翌々日には飲
酒を再開していること)
ⅴ 公務等に対する影響の程度(当該職員は運転を要する業務につくことができなくなった)
ⅵ 勤務態度等(過去の交通違反歴、業務内外のトラブルや問題行動)
でした。
欠勤等による懲戒解雇を有効とした裁判例
勤務は労働者の根本的な義務ですので、出社拒否等については懲戒解雇の対象となることがありえます。
東京地裁令和6年4月24日判決は、出社していなかった労働者において
ⅰ 会社から就労を継続する意思の有無及び労働者の健康状態(就労可能性)について回答すること、出社をすること、出社できない場合にはその理由について回答することを業務命令として再三にわたり求められたものの、会社に対し回答せず、出社しなかったこと
ⅱ 厳重注意、けん責処分、出勤停止処分を受けても対応に変わりがなかったこと
ⅲ 出勤停止処分後も3回にわたり会社から就労を継続する意思の有無及び健康状態(就労可能性)について回答するよう求められたのに、会社に回答しなかった
という事案において、懲戒処分を有効としました。
欠勤等についての懲戒解雇が有効となるかどうかは、欠勤の理由、欠勤期間、会社からの照会に対する回答状況などを踏まえ判断されることになるでしょう。
私的な性犯罪を理由とする懲戒解雇を無効とした裁判例
名古屋地方裁判所令和6年8月8日判決は、郵便局の課長において、スカート内を撮影しようとして条例違反で逮捕されたという事案について、
ⅰ 使用者において、盗撮等の破廉恥事案について、原則「懲戒解雇(退職手当一部不支給)」により措置することとし、ミーティング等において社員に周知することとし、当該労働者は、これを指導する立場にあったこと
ⅱ 当該行為が条例違反にとどまり、その法定刑に照らせば、他の法令違反行為と比較して重い法令違
反行為であるとまではいえないこと
ⅲ 労働者は被害者と示談をし、不起訴処分がされていること
ⅳ 懲戒標準においては、職務外の非違行為において刑事事件により有罪とされた者は、基本として「懲戒解雇~減給」とされているのに対し、それ以外の非違行為については、基本として「減給~注意」、重大なものとして「懲戒解雇~停職」とされているところ、本件行為は、それ以外の非違行為に分類されるものであること、
ⅴ 刑事事件において有罪判決を受けた場合と比して、類型的に、会社の業務に与える影響や被告の社会的評価に及ぼす影響は低いということ
ⅵ さらに、本件行為が行われて以降、本件行為ないし本件行為に係る刑事手続について報道がされておらず、その他本件行為が社会的に周知されることはなかったこと
ⅶ 労働者自身も本件行為日の翌日には釈放されており、通常の勤務に復帰できる状態になったこと
ⅷ これらの事情に加え、労働者が過去に懲戒処分歴を有していないこと
等を踏まえ、「慮すると、本件行為を懲戒事由として、懲戒解雇を選択したことは、懲戒処
分としての相当性を欠き、懲戒権を濫用したものとして無効であるといわざるを得ない。」としました。参照:私的な性犯罪を理由とした懲戒解雇を無効とした裁判例
いくら刑事罰に該当する行為をしたとしても、それが私的領域でのものにとどまる限りにおいて、会社はそのような行為に口出しするのは原則できません。
それができるのは、企業秩序に影響する場合だけです。
ですから、私的な性犯罪について懲戒解雇が有効となるかどうかについては、会社の業種、労働者の立場、法定刑、示談の有無、処分の内容、社内における懲戒基準、報道の有無、従来の勤務態度などを総合し、慎重に判断されることになります。
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