執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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くも膜下出血を防止するための脳動脈コイル塞栓術は、患者の負担も比較的小さく、極めて有効な治療法です。しかし、その結果、死亡等の重大な事故が発生する場合があり、医療機関側に損害賠償責任が発生することがあります。
以下、解説します。
コイル塞栓術で適切にマーカー合わせをしなかった義務違反
名古屋高裁平成25年11月22日判決は、医師においては、「デリバリーワイヤーの先端が動脈瘤や血管を穿孔することがないよう,コイルマーカーと第2マーカーとのマーカー合わせのときの位置よりもデリバリーワイヤーを先進させないようにすることが求められているのであるから,その旨の注意義務がある」とした上で、医師において、「硬い金属製のデリバリーワイヤーを使用するに当たり,これが本件動脈瘤を傷つけることを防止するため,デリバリーワイヤーがマイクロカテーテル先端より先進しないよう,正面透視のままコイルの挿入を行うのであれば,マーカー確認の角度が不適切であることを十分に考慮した上で,慎重にデリバリーワイヤーの操作を行い,かつ,側面透視又は側面透視に近い透視角度によりマーカーの確認をした上で,マーカー合わせをすべき注意義務があった」のに、この義務を果たさなかったとして、注意義務違反を認めました。
ワイヤ等については動脈瘤等からの出血を招く危険性があるため、コイル塞栓術においては、そのような事故を生じさせないための十分な準備等が必要となります。
コイル塞栓術で立体的なフレームを形成しなかった義務違反
広島高裁令和3年2月24日判決は、脳動脈瘤が二つの葉状の構成成分を有する場合,「ダブルカテーテルを用いて,二つのカテーテルを各構成成分に挿入」すること,コイルとしてTrufill Orbit Galaxyを選択するのであれば,「各構成成分の長径と同じ二次コイル径の長いコイルを選択し,各カテーテルから各構成成分の全体にバランスよくコイルを行き渡らせ,各構成成分の形状にフィットした,幾つかのコイルループがネック部分を横切る,コンパートメントやコイルの偏りのない,ネック部分までカバーした立体的なフレームを形成する」義務違反があったとしました。参照:コイル塞栓術の医療過誤についての広島高裁判決
コイル塞栓術について説明義務違反を認めた事例
東京地裁平成25年3月21日判決は、未破裂動脈瘤に対する塞栓術について、
1 塞栓術の合併症については,死亡の危険があることを説明しているものの,合併症を並べて説明するのみであり,個別の危険性や全体としての危険性の程度については,何ら触れられていないこと
2 当該患者において,手術の危険性が全体として,どの程度高まり得るのかについて,数値を示すなどの方法により具体的に説明していないこと
から説明義務違反を認めています。
死亡という結果をも招くことがあるため、コイル塞栓術については具体的なリスクを理解できるような説明が重要ですし、特に放置してもすぐに危険があるわけではない未破裂動脈瘤の塞栓術については強くそのことが言えます。
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