くも膜下出血の予防あるいは治療のための開頭クリッピング手術と医療過誤

さいとうゆたか弁護士

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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くも膜下出血を予防し、あるいは治療するために開頭クリッピング術が行われることがあります。

開頭クリッピング術については、済生会熊本病院のサイトをご参照ください。参照:開頭クリッピング術の説明

同手術は生命の危険にもつながりうるものであり、医療機関に注意義務違反があれば、損害賠償が認められることもあります。

以下、説明します。

開頭クリッピング術と説明義務

開頭クリッピング術は生命に関わる可能性があるので、医師には十分な説明を行う義務が認められます。

東京地裁平成25年3月21日判決は、未破裂のケースですが、高齢者に対する開頭クリッピング術について、医療機関の説明義務違反を認めています。

つまり、同判決は、「手術の必要性としては,本件脳動脈瘤が破裂すれば,死亡率が高いくも膜下出血となる旨説明し,破裂した場合の危険性を強調する一方,合併症については,死亡の危険があることを説明しているものの,合併症を並べて説明するのみであり,個別の危険性や全体としての危険性の程度については,何ら触れられておらず,本件承諾書裏面において下線を引くなどして強調して説明された箇所も,その説明自体は,開頭クリッピング術一般の説明と何ら変わるところはなく,亡Aに対する本件手術の合併症の危険の高さを踏まえた説明がなされたと見てとることはできない。」、「高齢であるため手術の危険が高まる旨の一般的な説明がされていたとしても,当該患者において,手術の危険性が全体として,どの程度高まり得るのかについて,数値を示すなどの方法により具体的に説明されなければ,患者において,その危険性が,手術の必要性,有効性との比較において,見合ったものであるのか否かを判断することができず,本件手術の危険性の高さを認識するために,十分な情報が提供されたということはできない。」としました。

つまり、当該事案に応じた、数値も含めた具体的なリスクとメリットについての説明がない場合に説明義務違反としたものです。

未破裂の場合には、くも膜下出血が生じたケースより高度な説明義務が課されます。

開頭クリッピング術と手技上の過失

名古屋地裁平成14年2月18日判決は、開頭クリッピング手術に際しての医師の手技上の過失を認め、医療機関の賠償責任を認めています。

つまり、同判決は、クリッピングを複数回行うことは避けるべきだとされているのに、「出血のために視野が悪く,本件穿通枝の起始部を目視することは困難であった上,本件動脈瘤のクリッピングに際しては,一つのクリップについては3回,もう一つのクリップについては5回のかけ直しがされたことが認められる。」、その結果穿通枝が閉塞し、脳梗塞が発症したとして、医療機関側に賠償責任を認めました。

開頭クリッピング術において手技上の過失を招かないためにも、十分に視野が確保された状態で手術をすることが重要です。

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