経口避妊薬の服用により重大な障害が生じたことについて損害賠償請求を認めた裁判例(医療過誤)

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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経口避妊薬は重大な後遺症に結び付きうる薬であり、これまで多くの裁判例で医療機関側の法的責任が問題とされてきました。

以下、ご紹介します。

1 経口避妊薬を安易に投与したことについて注意義務違反を認めた裁判例

函館地裁令和6年5月8日判決は、経口避妊薬であるアンジュ28錠を漫然と投与したことについて医療機関側の注意義務違反を認め、脳静脈洞血栓症による障害について賠償義務を認めました。

同判決は、

ⅰ アンジュの使用上の注意として、血栓症防止の観点から6ケ月毎の検診が必要とされ、かつ、そこには血圧測定が含まれていたにも関わらず、医療機関において血圧測定をしていなかったこと

ⅱ 40歳以上に対する投与は慎重投与とされており、被害者が40歳以上であったこと

を踏まえ、医療機関が漫然と投与したことは注意義務違反に該当するとしました。

6年以上血栓症の発症がなかったとしても、加齢によって血栓症発症のリスクが高まるため、血圧測定をしなくてよかったことにはならないともしています。参照:経口避妊薬の投与について賠償義務を認めた裁判例

経口避妊薬について、特に40歳以上の人については慎重な投与が求められ、きちんと検査をしないで障害等が残った場合、損害賠償の対象となる可能性があります。

2 経口避妊薬を処方するに当たっては、メリットデメリットを考量すべきだったとした裁判例

東京地裁平成30年5月24日判決は、経口避妊薬であるオーソM-21錠を処方するにあたっては、

・禁忌事項・使用上の注意事項に該当するかどうか

・治療効果があるかどうか(月経困難症、過多月経等)

などのメリットデメリットを考量した上で行うべきとしました。

なお、同判決の事案では、糖尿病という注意事項に該当するものの、月経痛などを緩和するというメリットを踏まえると、医師の注意義務違反はなかったとしました。

仙台地裁平成29年7月13日判決は、月経困難症の患者へのオーソM-21の投与にあたり、禁忌事項である高血圧患者に投与をし、患者が死亡したという事例で、損害賠償義務を認めました。医療機関側は、患者の投与希望があったとしましたが、判決はそれで投与は正当化されないとしています。

禁忌事項があるにも関わらず投与する場合にはかなり大きなメリットがなければ投与は許容されないということになるでしょう。

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