執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
2024年7月3日、最高裁大法廷は、優生保護法に関し、除斥期間について、適用しないとの判断を示しました。
同判断は、除斥期間に関する解釈にとって極めて参考となるものと思われるので、ご紹介します。
1 優生保護法についての高裁判断
債権法改正前の民法724条は、3年の消滅時効とは別に、20年の除斥期間の規定を置き、不法行為のときから20年経過すると権利が消滅するとしていました。
これを除斥期間と呼んでいました。
債権法改正により、この20年は除斥期間ではなく、消滅時効たとされましたが、古い不法行為事件については、いまだにこの除斥期間の規定の解釈が問題となりえます。
優生保護法については、高等裁判所において、除斥期間について異なる解釈がなされてきました。
例えば、大阪高裁令和6年1月26日判決は、優生保護法4条ないし13条の規定が、
ⅰ 子を産み育てるかどうかについて意思決定をする自由及び自己の意思に反して身体への侵襲を受けない権利を侵害し、憲法13条に反して違憲
ⅱ 特定の障害等を有する者に対して明らかに合理的な根拠のない差別的取り扱いをするものであり、憲法14条1項に反して違憲
としました。
その上で、国会議員がそのような意見立法をしたということは、国家賠償法上1条1項の規定の適用上違法となるとしました。
その上で、大阪高裁は、
ⅰ 国が、日本国憲法に基づき、個人の尊重を基本理念として、特定の障害や疾病を持つ人も平等に扱う施策を行いべきだったのに、それと真逆な優生政策を展開し、優生思想を国民に認識させてきたこと
ⅱ 被害者において国家賠償訴訟を起こすための前提となる情報や相談機関へのアクセスが困難な状況が続いたこと
等の状況を踏まえ、被害者らには除斥期間の規定は適用されないとして、国の損害賠償責任を認めました。参照:優生保護法における除斥期間について判断した大阪高裁判決
しかし、除斥期間の適用を認め、請求を認めない高裁判決もあり、最高裁の統一判断が待たれていました。
2 優生保護法と除斥期間についての最高裁判決
最高裁も、優生保護法の規定は憲法13条、14条1項に違反し、国会議員の立法行為は国家賠償法の適用上違法だとしました。
その上で、最高裁も、多くの高裁と同様、除斥期間は適用されないとの判断を示しました。
最高裁は、
ⅰ 国策として特定の障害がある人を差別し、重大な犠牲を求めた国の責任は極めて重大であること
ⅱ 国会が制定した法律について国民は合憲だとの推定を行い、被害者も障害者であるから、損害賠償請求権を行使することが困難であったこと、
ⅲ 憲法17条の趣旨からは、適切な補償が期待されたが、それがなされなかったこと
等から、除斥期間の主張は「著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない」としました。参照:除斥期間の適用を認めなかった最高裁判例
国という立場で、重大な人権侵害を行った場合、除斥期間の適用が制限されるという判断であり、別途重大な人権侵害が問題とされた場合にも妥当する論理と言えます。
優生保護法が違法なのかどうか、当時の社会情勢の中では判断が困難でしたし、極めて妥当な判断かと思います。
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