交通事故による胸郭出口症候群はどのような場合に損害賠償の対象となるか?

交通事故

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 胸郭出口症候群とは何か?

胸郭出口症候群は、上肢やその付け根の肩甲帯の運動や感覚を支配する腕神経叢と鎖骨下動脈が圧迫されることにより生じる上肢痛、上肢のしびれ、頸肩腕痛を言います。参照:胸郭出口症候群とは

交通事故により胸郭出口症候群となり、後遺障害が認定されることもあります。

2 胸郭出口症候群として12級の後遺障害が認定された事例

名古屋地裁平成24年3月30日判決は、以下の事情において、被害者の胸郭出口症候群を認め、12級の後遺障害を認定しました。

・頸部及び左肩の痛みが、治療を受け少し和らいだが、継続し、2,3ケ月で症状が悪化し、継続していること

・神経伝達速度検査、筋電図検査、腕神経叢造影、整形外科記録上、胸郭出口症候群を裏付ける所見があること

名古屋地裁平成30年2月23日判決も、左腕神経叢が胸郭出口部で尾側に圧排されている可能性があることを示すMRI検査の結果等を踏まえ、胸郭出口症候群として12級の後遺障害を認定しています。

他方、名古屋地裁平成29年10月13日判決は、胸郭出口症候群による12級の後遺障害認定をしませんでした。

同判決は、

・胸郭出口症候群の場合、挙上位で鎖骨下動脈が狭小化することが所見とされているところ,被害者の同部位の鎖骨下動脈は全く狭小化していないこと、胸郭出口症候群を示唆する圧迫箇所が認められないこと

・被害者について胸郭出口症候群を認める根拠となるとされる誘発テストについて,特異性に欠け,胸郭出口症候群診断の根拠とはならないと。
・被害者の治療経過で用いられた装具やキシロカインの注射の効果では胸郭出口症候群の根拠とはならないこと

を根拠に胸郭出口症候群は認められないとしています。

ただし、右肩痛、右上肢脱力感等の症状について、14級の後遺障害を認定しています。

このように、胸郭出口症候群で12級の後遺障害が認定されるためには、症状の経過だけではなく、各種の必要な検査結果、特に画像検査で裏付けがされることが必要となります。

胸郭出口症候群が疑われる場合には、医療機関に必要な検査を求めるべき場合もあるでしょう。

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