執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 自動車の評価額が交通事故で持つ意味
自動車の物損事故において、自動車が全損の場合の賠償額は自動車の評価額となります。
ここでいう全損は、(自動車の評価額+取得費用)≦修理費用となる、経済的全損の場合を含みます。
ですから、自動車の評価額は、物損事故において、賠償額を定める上で重要なものとなります。
2 自動車の評価額を定める資料
自動車の評価額について、最高裁昭和49年4月15日判決は、「同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額によって定めるべきであり、右価格を課税又は企業会計上の減価償却の方法であり定率法又は定額法によって定めることは、加害者及び被害者がこれによることに異議がない等の特段の事情のない限り、許されないものというべきである」としています。参照:自動車の評価額についての判例
そこで、その中古車市場における価格ですが、有限会社オートガイド発行のレッドブック(自動車価格月報)、ネット上の中古車サイトにおける価格を基準に定めることが多いです。
レッドブックは参照されることの多いものですが、個別事情により金額がそれより増額されることもありうるので、ネット上の中古車サイトで調べるべき場合もあります。
これらの資料で調査できないような古い自動車については、新車価格の1割という基準が保険実務、裁判実務で取り入れられています。
3 希少車種、ビンテージ車の評価額
希少車種、ビンテージ車については、マニア間で極めて高額で取引されることがありえます。
しかし、ごく少数のマニアによる評価を賠償額とすることについては、賠償額の客観性の観点から問題があると指摘されます。
例えば、広島高裁岡山支部平成8年5月30日判決は、被害者において、同型車よりオリジナルな状態を残し、保存状態が良いと主張しているクラッシックカーについて、マニア雑誌に同様の車が380万円で売りに出されている事実があるとしつつ、これは一部の愛好家の特別な好みが反映されているものであるとして、修理担当者の評価200万円(事故前)、同型車の売り出しが50~90万円であること等を踏まえ、時価を120万円と認定しました。
マニアによって高価値とされていても、それが賠償上の評価額には大きくは反映しないということになりがちです。
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