
執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 自動車の評価額が交通事故で持つ意味
自動車の物損事故において、自動車が全損の場合の賠償額は自動車の評価額となります。
ここでいう全損は、(自動車の評価額+取得費用)≦修理費用となる、経済的全損の場合を含みます。
ですから、自動車の評価額は、物損事故において、賠償額を定める上で重要なものとなります。
なお、自動車の評価額が損害となる場合に、自動車を売却して得たお金がある場合、その分は評価額から引くことになります(大阪地裁令和4年2月25日判決)。
2 自動車の評価額を定める資料
車両価格を減価償却により定めることができるか?
自動車の評価額について、最高裁昭和49年4月15日判決は、「同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額によって定めるべきであり、右価格を課税又は企業会計上の減価償却の方法であり定率法又は定額法によって定めることは、加害者及び被害者がこれによることに異議がない等の特段の事情のない限り、許されないものというべきである」としています。参照:自動車の評価額についての判例
レッドブックによる車両価格算定
そこで、その中古車市場における価格ですが、有限会社オートガイド発行のレッドブック(自動車価格月報)、ネット上の中古車サイトにおける価格を基準に定めることが多いです。
レッドブックより高い車両価格を認定した事例
しかし、実際の売買事例(ネットでの売買情報等)を証拠として出すことで、レッドブックを上回る車両価格が認定されることもあります。
レッドブックで30万円台の車両について80万円で評価した事例
名古屋地裁令和4年11月11日判決は、「本件事故当時の原告車の時価を算出するにあたって、レッドブックの記載を過大視すべきではなく、これら具体的な取引価格を参酌すべきである」との判断を示しています。
そして、同判決は、レッドブックを前提とすると30万円台の車両価格しか認められないとしつつ、
・実際の取引事例をみると、安いもので59万円、高いもので198万円の価格であること
・被害にあった自動車が事故前数か月の間に90万円で購入されているところ、購入後数か月で10%以上価格が低減するとは思われないこと
から、車両価格を80万円としました。
レッドブックで95万円の車両について105万円で評価した事例
東京地裁令和5年11月29日判決は、レッドブックでは95万円の自動車の車両価格について、売買事例の平均価格が136万9500円であること、被害車両の走行距離が売買事例より多いことを踏まえ、車両価格を105万円と評価しました。
レッドブックで45万円の車両について55万円で評価した事例
東京地裁令和3年9月30日判決は、レッドブックでは45万円の車両価格である自動車について、「中古車情報サイトの掲載情報))によれば,B車と同一の車種・年式・型で同程度の走行距離の中古車11台の平均販売価格は56万0091円(税込)である」として、車両価格を55万円と認定しています。
レッドブックや売買事例もない場合の簡易な車両価格算定
レッドブックやネット上等の売買事例の資料で調査できないような古い自動車については、新車価格の1割という基準が保険実務、裁判実務で取り入れられています。
3 希少車種、ビンテージ車の評価額
希少車種、ビンテージ車については、マニア間で極めて高額で取引されることがありえます。
しかし、ごく少数のマニアによる評価を賠償額とすることについては、賠償額の客観性の観点から問題があると指摘されます。
例えば、広島高裁岡山支部平成8年5月30日判決は、被害者において、同型車よりオリジナルな状態を残し、保存状態が良いと主張しているクラッシックカーについて、マニア雑誌に同様の車が380万円で売りに出されている事実があるとしつつ、これは一部の愛好家の特別な好みが反映されているものであるとして、修理担当者の評価200万円(事故前)、同型車の売り出しが50~90万円であること等を踏まえ、時価を120万円と認定しました。
マニアによって高価値とされていても、それが賠償上の評価額には大きくは反映しないということになりがちです。
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