枝が落ちてきた事故(落枝事故)、木が倒れてきた事故と損害賠償請求

さいとうゆたか弁護士

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 木の所有者などの損害賠償義務

木から枝が落ちてきたり、倒れてきて、下にいる歩行者等にぶつかり、死傷などの重大な結果を招く事故は少なくありません。

枝が落ちてきた事故については、その植え方や管理に欠陥(瑕疵)がある場合、民間については民法717条1項、2項、国や自治体については国家賠償法2条1項により、所有者、占有者、管理者が損害賠償責任を負う可能性があります。参照:国家賠償法

2 落枝について管理者に損害賠償義務を認めた裁判例

奥入瀬渓谷を歩いていたところ枝が落ちてきて、下を歩いていた人が負傷した事故について、東京高裁平成19年1月17日判決は、その地域を管理・占有する国・県に損害賠償責任を認めました。

同判決は、奥入瀬渓谷について、観光客が多数参集する場所であり、安全性への社会的な期待は高かったとしました。

その上で、そこのブナの木は,観光客の頭上を枝葉が広く覆った形で生育しており,落枝があった場合に観光客に人的被害を及ぼす危険性は高く,被害の程度も重大であったので,国及び県は、その管理において,周到な安全点検をすべきだったとしました。

そして、事故の原因となったブナについては、高老木であり,本件事故時には,8月であるのに樹冠の一部に枯葉が残っていただけで,緑の葉は全くなく,立枯れないしそれに近い状態であったとしました。

よって、国や県は、本件事故前において,本ブナの木から落枝が起こることを予見できたとしました。

それにも関わらず除去等をしなかったとして、国や県に損害賠償責任を認めました。

同判決からは、落枝について管理者等に損害賠償責任が認められるかどうか判断する上で、

ⅰ その木の下を人が通る可能性が高いか

ⅱ その木について枯れている等、落枝の可能性が高いか

等の要素が考慮されることがわかります。

3 木が倒れてきた事故で道路の管理者に損害賠償責任を認めた裁判例

宇都宮地裁令和5年3月16日判決は、県道沿いの私有地の木が倒れてきて、道路上の自動車の上に倒れてきた事故について、道路管理者である県の損害賠償責任を認めました。

同判決は、樹木が多い場所に道路を設置するのであれば、「道路脇の全ての樹木を丁寧に点検し続ける、道路の両脇に一定の高さの防護柵を設置する、道路脇の土地を買収等した上で道路脇の全ての樹木を伐採してしまう等、費用面の問題さえ度外視すれば、論理的には事故発生を回避する手段は幾らでも存在する」として、事故は不可抗力ではなく、県の賠償責任を認めたものです。

県道という、人がそれなりの頻度で通行することが想定される場所での事故ではありますが、樹木が枯れていたかどうかなどを問わず賠償責任を認めた判断については異論もありうるかと存じます。

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