執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
2024年11月6日、ハワイのシェラトン・ワイキキで開催していたHAWAII TAX IINSTITUTE CONFERENCEで日本のAIについて報告をしてきました。参照:HAWAII TAX IINSTITUTE CONFERENCEサイト
以下、報告の一部をアップします。
1 AIを使った法律サービスと弁護士法
〇法律サービスの提供は弁護士法違反(非弁行為)に該当しないか?
〇「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」(2023年8月 法務省大臣官房司法法制部)
・弁護士法72条の「訴訟事件・・・鑑定・・・その他一般の法律事件」に該当する場合ー紛争解決のための和解、個別事情に応じて契約書等を表示したり審査したり、管理サービスにおいて個別の事案において法的リスクを表示することが含まれうる
2 司法におけるAI利用
〇裁判所における利用
現時点では利用されていない。
「デジタルデバイド、セキュリティリスクや事件の特殊性への配慮の欠如、AIによる差別、誤判断・誤認識、これらのリスクの拡大、及び裁判のブラックボックス化はAIがもたらすリスクの例である」
「AIが事件の結論の全部または一部を提案するなど、判決・決定の内容に直接影響を及ぼし得る場面でのAIの導入を考える場合には、そのようなAIの使い方が適切かどうかも含め、特に慎重に検討する必要がある」
(薦田淳平 水戸地裁判事補「裁判所で使われる人工知能(AI)」(判例タイムズNO1513 2023・12)
〇法務省 民事判決データベース化検討会報告書(令和6年7月)は、AIによる仮名化処理を念頭に民事判決データベース化をすることを了承
⇒これが実現すれば、AIによる法務サービスが拡大深化する可能性
3 日本におけるAIの問題事例
リクナビ事件
〇リクルートキャリア社が運営する就職サイトリクナビで、リクルートキャリア社が、cookieで就職活動をする学生の情報を突合し、就職辞退率を算出し、それを学生に無断で、契約していた企業に提供した事件
〇個人情報保護法では、個人情報に該当するかどうかは提供先を基準に判断される。よって、リクナビ事件では、提供先企業にとって学生を特定できても、リクルートキャリア社にとって学生を特定できない場合には、個人データの第三者提供規制が及ばないとされた。
〇そのため、2020年個人情報保護法改正では、提供先において個人識別が可能となる情報を提供する場合には、本人の同意確認等が義務付けられた。違法又は不当な行為を助長・誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはならないとの規定も導入された。
〇就職辞退率の算定自体についての規律はない。
4 AIと個人情報保護法
個人情報保護法関係
〇個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」令和5年6月2日
・本人の同意なく個人データを入力する場合、個人データが応答結果の出力以外に使われる場合、個人情報保護法違反となる可能性があるので、「当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認する」こと(行政も同様)
〇利用目的の特定例(個人情報保護ガイドライン通則編)
☆事例 1)「取得した閲覧履歴や購買履歴等の情報を分析して、趣味・嗜好に応 じた新商品・サービスに関する広告のために利用いたします。」
☆事例 2)「取得した行動履歴等の情報を分析し、信用スコアを算出した上で、当該スコアを第三者へ提供いたします。」
5 AIと著作権
著作権関係①
〇令和6年3月15日「AIと著作権に関する考え方について」文化審議会著作権分科会法制度小委員会
・非享受目的での著作物利用は著作権法30条の4で適法とされるところ、著作物を純粋に機械学習のために使う場合は、「非享受目的」とされ、著作権侵害とならない
・意図的に、学習データに含まれる著作物の創作的表現を出力させることを目的とした学習を行うため著作物の複製を行う場合は、「非享受目的」ではない。
著作権関係②
・著作権法30条の4の例外(「著作権者の利益を不正に害する場合」)に該当するかどうかは、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から総合的に検討することになる。
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