執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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妊娠中絶をめぐって、男性側の対応が不誠実だとして慰謝料の支払いが命じられるケースがみられます。
どのような場合に慰謝料請求が認められるのか、以下、解説します。
1 中絶の強要により慰謝料が認められたケース
東京地裁令和5年11月6日判決は、男性が中絶を強いたとして慰謝料を認めています。
男性は、女性に対して、「堕ろすしか選択肢はない」「産むのはダメです。ムリです。責任がとれません!!結婚もしません!!3回しか会ってなくて、付き合ってもないからムリです!ごめんなさい。」「もし出産しても、僕たちは交際や婚姻関係にないから協力はできないよ。」「自分の子供なら中絶手術にかかる費用を法律的には半額のところを全額サポートすることならできます。」と、中絶以外の選択肢はない、出産をしたとしても、何ら協力はできないと伝えて、原告が出産した場合には、何ら責任を取らないとの意思を繰り返し表明しました。
裁判所は、このような事実関係を踏まえ、中絶の選択を強いたものと評価すべきとして慰謝料を認めました。
慰謝料額については、女性の被った精神的苦痛、男性がDNA鑑定に応じていないこと、中絶費用も分担していないことなどを踏まえ、150万円を認めています。
当該事案は、暴力や脅迫により中絶を強いた事案ではありませんが、それでも事実上強要と言える場合には慰謝料が発生するものです。
2 中絶するかどうかの話し合いに応じなかった場合に慰謝料が認められたケース
東京地裁令和4年11月16日判決は、男性側が、中絶するか出産するかの話し合いに応じなかった場合に慰謝料を認めています。
裁判所は、前提として、妊娠した女性は、男性から、中絶の不利益を分担する行為の提供を受ける法的利益を有し、男性は女性に対して上記の行為を行う父性としての義務を負うものとしました。
その上で、当該事案において、産むか産まないかについて協議に応じなかったとして、男性に慰謝料の支払いを命じました。
当該事案では、中絶が中期中絶の最終時期で母体への影響が大きかった等として、慰謝料60万円が認められています。
なお、その他、女性が要した医療費や胎児の葬儀代などの半額の賠償も命じられています。
3 虚偽の事実を述べて中絶させたことについて慰謝料を認めたケース
東京地裁令和3年7月19日判決は、交際を継続する意思もないのに、中絶をした場合に交際を継続する意思を示し、もって女性に中絶をさせたとして、男性側に100万円の慰謝料を認めています。
4 中絶についてコミュニケーションをとらなかったことについて慰謝料を認めたケース
東京地裁令和1年12月24日判決は、中絶の準備のためのやりとりを除き、女性の「身体的な不調や,不安等から生じる精神的苦痛を和らげるためにコミュニケーションを図ろうという態度」がなかったとして、男性に100万円の慰謝料の支払いを命じています。
5 中絶と慰謝料についてのお悩みはご相談ください
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