脂肪吸引手術の医療過誤と損害賠償 新潟県の弁護士が解説

さいとうゆたか弁護士

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

新潟県の弁護士齋藤裕に医療過誤はお任せ下さい。
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近年、美容整形外科領域での医療過誤が問題とされることが多くなっています。

その中でも特に重篤な結果をもたらすことのある、脂肪吸引手術の医療過誤について解説します。

1 脂肪吸引手術と説明義務違反

美容整形外科手術は、それをしなくても生命身体が害されることはなく、不要不急のものです。

ですから、通常の手術等より高度は説明義務が求められます。

仙台地裁平成29年9月28日判決は、頸部のたるみ除去手術の結果、頸部に手術痕が残った事例について、以下のとおり、医師には高度な説明義務があるとしています。参照:脂肪吸引手術と説明義務・医療看護についての裁判例

「美容整形手術は,疾病や外傷に対する治療と異なり必要性や緊急性に乏しく,また,患者の有する一定の美容目的を達成するために実施するものであるから,医師としては,患者に対し,当該手術を受けるか否かの判断に必要な情報を十分に提供する必要があり,実施予定の手術の内容とともに,手術に付随する危険性,欠点等のマイナス面,他の選択可能な治療方法の内容等をできる限り具体的に説明すべき注意義務を負い,患者が当該手術を受けないという選択肢を実質的に確保しなければならないというべきである。」

その上で、当該事案について、「本件手術によって生じ得る手術痕の大きさ,外観及び残存する期間についての説明が十分でなく,かつ,他の選択可能な手法として,耳介部周辺切開術式の内容,適応可能性,それを受けた場合の利害得失についての説明をしていない」として説明義務違反を認め、慰謝料100万円の支払いを命じました。

その他、脂肪吸引手術をめぐる説明義務違反について判断した裁判例としては、

ⅰ 麻酔方法(全身麻酔か部分麻酔)についての説明義務違反により慰謝料を認めた東京地裁平成28年9月29日判決

ⅱ 死亡や重度後遺障害に至る重大な合併症を生じさせる可能性があることについて説明すべき義務を怠ったとして200万円の慰謝料の支払いを命じた事例(東京地裁平成24年9月20日判決)

ⅲ 合併症や後遺症の危険等についての説明義務違反があるとして30万円の慰謝料や治療費・休業損害があるとした事例(東京地裁平成16年2月20日判決)

ⅳ 手術を受けると腫れや皮下出血などが生じて会合に参加できなくなるおそれがあることを明確に告知して,原告が手術を受ける意思を有するかどうかを慎重に確認すべき義務を怠ったとして慰謝料80万円の支払いを命じた事例(東京地裁平成16年1月28日判決)

などがあります。

説明義務は、患者の自己決定を尊重するためのものです。説明がなされても、手術キャンセルで100%の代金がかかるような場合、説明義務を尽くしたとは言えません(東京地裁平成25年2月7日判決)。

2 脂肪吸引手術における麻酔管理上の過失と医療過誤

脂肪吸引手術における麻酔について、呼吸状態の悪化等により死亡等重大な結果を招く危険があるので、医師においては、麻酔は適時適量とすること、呼吸抑制等が現れた場合には即座に対応できるよう準備をすること等が求められます。

東京地裁平成25年3月14日判決は、手術中に患者についてSpO2の低下を認めた医師としては,ⅰ 呼吸抑制をより増悪させる恐れのあるプロポフォール及びフェンタニルの追加投与に際しては,あらかじめ十分に酸素を投与して酸素化をすることが望ましい

ⅱ 少なくとも,患者の容体を専属で看視する医師(麻酔専門医が望ましい。)又は熟練した看護師の応援を求め,その立会の下,容体の急変の有無に細心の注意を払い,呼吸抑制の兆候が見られれば,直ちに気道確保や酸素投与ができる準備をした上でこれを行うべき義務があった

との判断を示しました。

しかし、ⅱの義務を怠って重度障害が残ったとして損害賠償を認めました。

3 脂肪吸引手術における手技上の過失と医療過誤

大阪高裁平成23年7月12日判決は、脂肪吸引手術において広範な皮膚壊死が生じた事案について、「広範な皮膚壊死の原因となるほど,カニューレ(吸引管)で皮下血管網を損傷したことから,控訴人には手技上の過失があるものと推認することができる」として、手技上の過失を認め、損害賠償を命じています。

東京地裁平成8年2月7日判決は、吸引量が多すぎて、そのため凹凸が残ったとして、医療機関側に損害賠償を命じています。

4 血栓塞栓症などの脂肪吸引手術後のトラブル発生への対応が不十分だったことと医療過誤

美容整形外科での手術については、トラブルが発生した際のアフターフォローが不十分だと批判されることがありますが、場合によっては不適切なアフターフォローについて慰謝料が認められることがあります。

東京地裁平成14年2月28日判決は、脂肪吸引手術後に血栓塞栓症で死亡した患者について、手術を行った医師が適切なアフターフォローをしなかったことについて判断を示しています。

同判決は、「自己が約3週間前に脂肪吸引手術を行った患者が来院したときには,同手術の合併症に関する前判示のとおりの知見に照らせば,医師としては,患者に対して合併症の発生の有無を確認するために診察をし,これに対する処置を行うか,又は,患者の症状等からみて自ら治療を行うことが難しいと判断される場合には患者をより高度の医療技術を有する機関に転送する措置を執るべき注意義務」があるが、これを怠ったとして、慰謝料500万円を命じています。

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