
執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 特有財産と財産分与(離婚)
特有財産と共有財産の区別を検討する意味
離婚の際には、夫婦が共同で作った財産について財産分与がなされることになります。
夫婦の一方が結婚前から持っていた財産、すなわち特有財産については、夫婦が共同でつくったものではないので、財産分与の対象とならないのが原則です。
預貯金はどのような場合に特有財産とされるのか?
預貯金の特有財産性についての裁判例
夫婦の財産は共有財産であると推定されます。
よって、特有財産を主張する側で、当該財産が特有財産であることを立証できなければ当該財産は特有財産とされることになります。
客観的証拠がなく、特有財産だと記憶していうだけでは特有財産とは認められません。参照:供述だけでは特有財産と認められないとした判決
また、福岡家庭裁判所平成30年3月9日決定は、
「相手方は,内縁関係の開始時に相手方が保有していた預貯金口座の残高の合計額である4733万4354円を控除すべきであるとも主張している。」
「しかしながら,そもそも,申立人と相手方の内縁関係は約18年半もの長期間に及んでいる上に,関係証拠に照らすと,相手方は,同期間中に,上記預貯金口座以外にも複数の預貯金口座を保有していたことが認められる。そして,各預貯金口座の出入金履歴には,生活費関係の多数の出入金のほかに,事業関係資金等と推察される多数かつ多額の出入金及び資金移動も混在していることが認められる。」
「上記事情等に照らすと,内縁関係の開始時に相手方が保有していた預貯金口座の残高について,特有性が維持されているとは認められないから,相手方の主張は採用できない。」
として、一方当事者に、婚姻時に相当な財産があったとしても、婚姻期間が長期間に及び、お金の出入りが頻繁であったとして、婚姻時の預貯金残高は特有財産とはならないとしました。
ただし、同決定は、婚姻時において相当な財産があったことも踏まえ、3分の1:3分の2という分与割合で分与をしています。
東京高裁令和4年3月25日決定、東京高裁令和3年12月24日決定、大阪高裁令和3年8月27日判決も、共有財産性を認めつつ、一方の多額の遺産がそれに混入していたことを考慮して分与割合を決定しています。
預貯金の特有財産性についての東京家裁の運用
東京家裁家事第6部が発した「東京家裁人事部における離婚訴訟の審理モデル」では、預貯金の特有財産性の判断について以下のとおり述べています。
1 婚姻時から基準時まで口座に入金だけが続いている⇒婚姻時残高が特有財産
2 婚姻時から基準時まで出金が続いている⇒基準時残高が特有財産
3 婚姻時から基準時まで入出金が繰り返されている
⇒その期間が短い場合、婚姻時点の残高と基準時点の残高の小さい方が特有財産とみるのが合理的
⇒その期間が長い場合には特有財産とは言いにくくなる。特に入金額が多く、婚姻時残高を大きく
上回るようになると、特有財産とは言いにくい。
⇒支出されたお金をすべて婚姻時残高から支出したと過程して算定された金額については特有財産
とみる見解はありうる。他方、すべて共有財産となる考えもありうるが、婚姻時残高に比べその後
の入金額が小さい場合は特有財産が残るとも考えられる。「婚姻時から長期間が経過し、その間に
入出金が繰り返されているような場合には、婚姻時の預金残高がそのまま特有財産として残存して
いると認められるケースは限定的」
このように、ケースバイケースで特有財産かどうかが判断されることがわかりますが、婚姻後長期間にわたり入出金が繰り返されてきた口座を特有財産とするのは簡単ではないことがわかります。
このモデルは、あくまで東京家裁でのモデルではありますが、1裁判官の見解ではなく、東京家裁としての運用モデルですので、その影響は大きく、新潟家裁他の裁判所での裁判等でも参照にされうるものです。
不動産と特有財産・共有財産
大阪高裁令和3年8月27日判決は、不動産について、預貯金と異なり、特有財産により取得した部分と共有財産部分を分け、共有財産部分についてのみ財産分与の対象としています。
東京家裁家事第6部が発した「東京家裁人事部における離婚訴訟の審理モデル」もこのような計算方法を採用しているようです。
具体的には、特有財産部分=不動産の現在価格×特有財産出資額/不動産の購入価格との計算方法を提示しています。
このように預貯金と不動産とでは異なる判断方法となることがありうることに注意が必要です。
退職金と特有財産・共有財産
退職金の財産分与額は、基準時に自己都合退職した場合の退職金額×婚姻後の同居期間/入社日~基準日の期間との計算で共有財産を計算します。
入社日~同居までの期間分の退職金は特有財産ということになります。
生命保険の返戻金と特有財産・共有財産
基準時の解約返戻金額×婚姻後の同居期間/契約期間=が財産分与の対象となります。
逆に言うと、契約後、同居までの期間の保険料払い込みに対応する返戻金は特有財産となります。
夫婦間で贈与された財産と特有財産・共有財産性
不貞などの解決のため、配偶者の一方から他方に贈与された財産は他方の特有財産となります(大阪高裁平成23年2月14日決定)。
そのように解しないと、贈与の趣旨が没却されるでしょう。
2 特有財産について分与を認めた事例
しかし、極めて少数ですが、特有財産についても財産分与を認める裁判例が複数あります。
例えば、東京地裁平成15年9月26日判決は、以下のとおり述べ、特有財産についての財産分与を認めています。
「被告は,A1社,I1社を初めとする多くの会社の代表者であって,社団法人,財団法人等の多くの理事等を占める,成功した経営者,財界人である原告の,公私に渡る交際を昭和58年頃から平成9年頃までの約15年に亘り妻として支え,また,精神的に原告を支えたことからすると,間接的には,共有財産の形成や特有財産の維持に寄与したことは否定できない。」
「しかし,その社会的責務は,成功者である経営者,財界人としての原告の地位に当然伴うものであること,それを果たさないことは,成功者である経営者,財界人としての原告の地位を脆弱とする危険性も否定できないこと,原告が,被告が社会的責務を果たすことを要請し,具体的な指示もしていることからすると,その社会的責務を共に果たした被告は,間接的には,原告の財産維持,形成に寄与していると解される。」
このように、特有財産の維持について貢献してきたといえることから特有財産も含めその財産分与を認めました。
このように場合によっては特有財産についても財産分与が認められる可能性があるので、簡単に諦めないことが大事です。
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