執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
精神疾患患者による迷惑行為でお悩みの方は弁護士齋藤裕にご相談ください。
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1 精神障害を疑われる他害行為を放置した自治体の法的責任
北九州市で中三のお子様が刺殺等された事件に関連して、近隣の43歳男性が逮捕されました。
報道によると、この男性については、近所から騒音被害の訴えが警察等になされていたとのことです。
この男性が実際に刺殺などをしたのか、この男性に精神疾患等の背景があるのかどうか、現時点では全く分かりません。
しかし、精神疾患を背景に持つと思われる人が、近隣に迷惑をかけることは珍しくありません。
そのような場合に、自治体が近隣の人の訴えにより、精神障害を背景に持つと思しき人が他害をしていると認識したのに、特段の対応もせず、重大な結果が発生した場合、自治体が損害賠償等の法的責任を負うのか、検討してみました。
2 精神障害を疑われる他害行為について自治体がなすべきこと
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律は、以下のとおり措置入院について定めます。
第二十九条都道府県知事は、第二十七条の規定による診察の結果、その診察を受けた者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、その者を国等の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる。参照:精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
つまり、精神障害があって、それに基づき人に迷惑をかける人については、精神病院に入院させることができるわけです。
それではどのように精神障害があるかどうか判断するかですが、都道府県知事が指定医に診断させることになります(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律27条)。
通報等を受けた場合、調査の必要があれば、都道府県知事にとって診断させることは義務です。
この通報は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律22条に基づき、誰でもすることができますし、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律23条に基づき警察官もすることができます。
以上のとおり、都道府県は、
ⅰ 他害をする精神障害者との疑いがあるとの通報がある場合には指定に診断をさせなければならず、
ⅱ 精神障害があり、自傷他害のおそれがあると認定した場合には、精神病院に入院させなければなりません。
近隣の人からの通報があり、必要性が認められるにも関わらず、そもそもⅰの診断をさせない場合、違法と考えられます。
また、診断後の措置入院についても、その権限行使に濫用があるような場合にはやはり違法と考えられます。
3 他害をしている精神障害者がいると通報しているのに、自治体が対応しないときどうするのか?
他害をしている精神障害者がいると通報しているのに、都道府県が対応せず、損害が発生した場合、国家賠償請求をするとか、義務付け訴訟をして措置入院を求めるということが考えられます。
いずれも類例が乏しいですが、自治体がきちんと対応してくれない場合の最後の砦として検討に値すると考えます。
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