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執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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1 高額療養費制度をめぐる情勢
高額な医療費を払った場合、限度を超える医療費の払い戻しを受けることができる制度が高額療養費制度です。
70歳未満の場合の収入と月毎の限度額の関係は以下のとおりです。
ⅰ 報酬月額81万円以上 252,600円+(総医療費-842,000円)×1%
ⅱ 報酬月額51万5千円以上〜81万円未満 167,400円+(総医療費-558,000円)×1%
ⅲ 報酬月額27万円以上〜51万5千円未満 80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
ⅳ 報酬月額27万円未満 57,600円
ⅴ 被保険者が市区町村民税の非課税者等 35,400円
参照:高額療養費制度について
この月毎の限度額や所得層の区分が、高収入層を中心に引き上げられると報道されています。
2025年8月からは、ⅰが29万、ⅱが18万8000円、ⅲが8万8000円、ⅳが6万0600円、ⅴが1万5400~3万6300円となり、2027年8月からは所得層区分が見直され、所得層に応じて1万5400円~44万4000円になるとされています。
2 高額療養費制度がもたらす不平等
報酬月額27万円の人の負担する療養費
報酬月額27万円以上の場合、単純に×12した場合、年収324万円です。
その場合の所得税はおおざっぱに言うと42万1500円です。所得税を引いた金額は281万8500円となります。
そして、医療費限度額は80,100円+(総医療費-267,000円)×1%となります。
仮に、1000万円月額医療費がかかった場合、上記計算式では、月額療養費17万7430円を負担することになります(健保連の調査によると、令和4年度において、月額1000万円以上のレセプトが1792件あったということです)。
報酬月額27万円未満の人の負担する療養費との差は許容されるのか?
ところが、月額27万未満の人は、3万5400円が上限となります。
たった1円月額報酬が異なるだけで実に月額負担14万円もの差が出てきます。
特に、高額の療養費を負担するような状況では、患者は就労もまともにできない状況ということが多いでしょう。
たくわえがあるかどうかも個人差がありますし(奨学金や事業資金の返済のため、高収入でもたくわええが乏しい人も多いでしょう)、サラリーマンでなければ傷病手当すら出ません。
それにも関わらず、前年収入により、このような療養費負担に差が出てくることは異常といえます。
3 憲法の平等権、生存権を尊重した制度の構築を
現行の高額療養費制度は憲法14条などに違反しないか?
貧富の差を縮小させることは重要な政策目標です。
しかし、少しだけ基準を上回っただけで、急に療養費が高くなり、収入差をも上回るような療養費の差が出てくる制度に合理性があるとは思われません。
貧富の差の解消のために高所得者については保険料が高く設定されており、保険制度における貧富差の解消策としてはそれで十分と考えるべきです。
前年度収入が高かったがために、療養費の負担ができず、必要な治療が受けられない社会。
そのような社会は憲法14条の平等権や憲法25条の生存権が保障されているとは言えないのではないでしょうか?
保険料について所得差を認めるのであれば、給付、つまり高額療養費制度については完全に同一額を上限とすることが憲法の理念に沿っているように思います。
高額療養費制度と憲法14条についての検討
憲法14条は、「第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」としています。参照:日本国憲法
「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」に該当しない理由による差別は禁止されないと解釈し、かつ、「社会的身分」とは、人の生まれによって決定される地位を指すと考えると、所得による差別は憲法14条により禁止されないかのようです。
しかし、尊属殺重罰規定を違憲とした最高裁判決は、憲法14条の「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」は例示だと判断していいます。参照:憲法14条後段列挙事由は例示とした判例
また、社会的身分とは、最高裁により、「人が社会において占める継続的な地位」のことを言うとされており、後天的なものも含むとされます。
よって、所得による不合理な差別も憲法14条に違反します。
そして、貯えもなく、かつ、大病で収入を失った人が、前年度の収入が高かったという理由だけで、前年度の収入が低い人と比べ、医療の面で差別される合理性があるとは言えず、現行の高額療養費制度は憲法14条や29条に違反する可能性があり、その改悪は違憲性を強めるものと考えます。
現行の高額療養費制度における差別性を強化する高額療養費制度の改悪には反対をします。
極めて優遇されている公務員
ところで、高額療養費制度自体は公務員にも適用されます。
しかし、公務員については、一部負担金払戻金などの制度があり、実際に負担する医療費は民間人よりはるかに小さい金額です。
例えば、高額療養費を控除後の負担額が8万7430円の場合、6万2400円の一部負担金払戻金が支払われ、実際に公務員が負担するのは2万5030円とされます。参照:一部負担金払戻金についてのサイト
当然、国もその財源を負担しています。
国民の税金で自らは高額療養費を実際にはほぼ負担しないようにしておきながら、財源を理由に民間の労働者には高額の療養費の負担を強いる。
このような官僚のやり方は極めて不当ですし、このような意味でも高額療養費制度は憲法上問題があると考えます。
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