独占禁止法の不当な取引制限の禁止(カルテル、談合等)について解説しました

さいとうゆたか弁護士

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 独占禁止法の不当な取引制限の禁止について

不当な取引制限についての条文

独占禁止法第三条は、「事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。」としています。参照:独占禁止法

この中には、不当な取引制限も含まれます。

独占禁止法2条6項は、「この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。」としています。

不当な取引制限についてのサンクション

独占禁止法7条1項は、公正取引委員会は、「当該行為の差止め、事業の一部の譲渡その他これらの規定に違反する行為を排除するために必要な措置を命ずることができる」としており、不当な取引制限があった場合には排除措置命令が下される可能性があります。また、課徴金が課されうる可能性もありますし、刑罰の対象となることもあります。

リーニエンシーについて

不当な取引制限を行った事業者でも、公正取引委員会に事実関係を申告する等した業者については、独占禁止法7条の4により課徴金が減免等されることになります。これをリーニエンシーと言います。

調査開始前に申請した場合、第一順位事業者は全額免除、2位事業者は20%減算、3~5位事業者は10%減算、6位以下は5%減算です。協力度合いに応じ追加して最大40%が減算されます。

調査開始後は、最大3社が10%減算、それ以外は5%減算になります。協力度合いに応じ追加して最大20%が減算されます。

リーニエンシーについてはすでに多くの事件で適用されています。

事例としては、山形県が発注する豚熱ワクチン等の談合についての事例があります。参照:リーニエンシーについての事例

この事例では、山形県発注分については、違反事業者3社のうち、MPアグロについては課徴金免除、アグロジャパン及び小田島商事について課徴金30%減算とされています。

不当な取引制限をした事業者の弁護士としては、公正取引委員会で課徴金等が課される見通しなどを見極めつつ、他の事業者に先駆けてリーニエンシーの申請をするのが腕の見せ所となります。

2 不当な取引制限の禁止とカルテル(ハードコアカルテル)

不当な取引制限としてのカルテルの要件

カルテルは不当な取引制限の禁止対象の典型例です(ハードコアカルテル)。

入札談合等の価格協定、市場分割協定等がカルテルの例となります。

独占禁止法で禁止されるカルテルに該当するには、

ⅰ 他の事業者と共同して、

ⅱ 相互のその事業活動を拘束し、または遂行する

との要件を満たす必要があります。

条文上は、「競争を実質的に制限する」ことも要件とされています(弊害要件)。

しかし、カルテルに該当する場合、弊害要件を満たすことが多いと考えられています。

ごま油でのカルテルの事例 かどや製油と竹本油脂の事例

ハードコアカルテルの事例として、公正取引委員会が2025年5月14日に排除措置命令を出した、ごま油でのカルテル事例を紹介します。参照:(令和7年5月14日)ごま油及び食品ごまの製造販売業者に対する排除措置命令及び課徴金納付命令について | 公正取引委員会

ここでは、ごま油の価格についてのカルテル(かどや製油、竹本油脂)がなされていることが問題とされています。

ごま油のシェアでは、かどや製油が50%程度、竹本油脂で40%程度とされます。

日清オイリオもヘルシーごま香油という商品を出しており、高いシェアを誇っていますが、これは混合油です。

ですから、かどや製油と竹本油脂のシェアを考えると、両社によるカルテルは競争を実質的に制限するものと言えるでしょう。

よって、実際に価格についてのカルテルがなされたとすると、弊害要件も満たし、不当な取引制限に該当しうると考えられます。

なお、報道によると、竹本油脂において事実関係を公正取引委員会に申告しており、上記のリーニエンシーにより一部の事案で課徴金が課されませんでした。

3 非ハードコアカルテルと不当な取引の制限 都内高級ホテル価格カルテルで警告との報道

企業間の業務提携が非ハードコアカルテルと呼ばれ、不当な取引制限の対象とされうると考えられています。

しかし、実際に検挙される事例は少ないと言われています。

非ハードコアカルテルの例としては、競業業者間の部品共同購入、物流共同化、情報交換等です。

これらが非競争性をもたらすかどうか等を考慮して、不当な取引制限に該当するかどうか判断されます。

例えば、公正取引委員会のサイトでは、「塗料の原料メーカー又はユーザーから各会員に対する値上げ要求又は値下げ要求の内容についての情報収集を行い,これを会員に提供することにより,会員の価格交渉の手助けをすること」について、「会員の原料購入価格又は製品の販売価格の制限に関する暗黙の了解又は共通の意思が形成されるおそれがあり,独占禁止法上問題となる。」としているところです。参照:公正取引委員会ページ

価格の暗黙の了解等につながりうる場合には、価格についての情報交換も独占禁止法上問題となりうるのです。

なお、2025年4月17日の報道によると、都内高級ホテル価格カルテルで公正取引委員会が警告を行うと報道されています。

報道では、価格の取り決めなどの要素はなかったようですが、上記公正取引委員会のサイトに掲載されている事例のように、非ハードコアカルテルではあるものの、価格の暗黙の了解等につながりうるとして非競争性をもたらす懸念があると考えられた可能性があります。

4 移籍制限と不当な取引の制限、独占禁止法違反

スポーツ界や芸能界における移籍制限ルールが不当な取引の制限として独占禁止法違反とされる場合もありえます。

競合するチームや芸能プロダクションによって移籍制限が取り決められた場合、それが不当な取引の制限となる可能性があります。

しかし、移籍制限の結果、育成インセンティブ、戦力均衡等のメリットが生じるような場合には、移籍制限が目的達成手段として移籍制限が相当かどうかを検討し、移籍制限が不当な取引制限かどうか個別具体的に判断されることとされます。

しかし、無期限の移籍制限については不当な取引制限とされる可能性が高いと考えられています。

参照:公正取引委員会による移籍制限と独占禁止法についての見解

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