執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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赤穂市民病院事件執刀医在宅起訴報道と神経損傷
赤穂市民病院における手術中の神経損傷事故について、執刀医が在宅起訴されるという報道がなされています。
証拠を見ない限り、犯罪と言える行為があったかどうかは不明ですが、手術中の神経損傷事故は重大な結果をもたらしうるものですし、場合によっては刑事責任を問われることもありえます。
以下、手術中の神経損傷事故と医療過誤について事例をみていきます。
手術中の左足底神経損傷の事例
神戸地裁尼崎支部平成21年2月17日判決は、左足関節外側靱帯損傷,左距骨離断性骨軟骨炎と診断され,前距腓靱帯・踵腓靱帯再建術を受けた患者について、手術中の左足底神経損傷の医療過誤があったとし、遺族から医療機関側への損害賠償請求を認めています。
判決は、手術部位や損傷部位から神経損傷が医師により生じさせられたと認定し、手技上の過失があるとして、医療機関側に損害賠償を命じました。
髄内釘を抜く際の内側足底神経損傷の事例
東京地裁平成19年9月27日判決は、髄内釘を抜く際,内側足底神経を刺激ないし損傷したとの医療過誤について、医療機関側の賠償責任を認めました。
同判決は、「神経損傷の危険性が特に高いとはいえない手術において,神経を刺激ないし損傷し,その結果,痛み等の症状をもたらした場合には,手術を担当した医師の上記注意義務違反及び過失が推認される」とした上で、当該手術については神経損傷の危険性が高いとは言えないとして、医師の過失を認定しました。
上腕骨折部の骨接合手術の際の尺骨神経の損傷の事例
福岡地裁平成5年5月27日判決は、上腕骨折部の骨接合手術の際の尺骨神経の損傷について、医療機関側の損害賠償責任を認めています。
同判決は、「本件手術のような上腕骨下端部骨折の観血的手術を施行する場合、重要な神経組織である尺骨神経に損傷か生じないよう、その確認及び保護を行う」義務があるのに、医師がこれを怠ったとして過失を認めました。
腰椎椎間板ヘルニアに対する腰椎椎弓切除手術の際の馬尾神経損傷の事例
神戸地裁昭和62年10月26日判決は、腰椎椎間板ヘルニアに対する腰椎椎弓切除手術に際しての馬尾神経損傷について医療機関側の過失を認めました。
判決は、損傷の確率が低い手術で神経が損傷しているとして、医師の手技上の過失を認めています。
手術中の神経損傷に関する損害賠償責任が認められる場合
そもそも手術中の神経損傷について損害賠償責任が認められるためには、
ⅰ 神経損傷があるのか
ⅱ 神経損傷の原因が手術かどうか
ⅲ 神経損傷について医師に落ち度があるのか
が大きなポイントとなります。
ⅱについては、神経損傷が生じた時期と手術との関係、神経損傷の部位と手術部位との関係等がポイントです。
ⅲについては、失敗する率が低い手術で神経損傷が生じた場合には、過失が認められる傾向があります。
また、手術にあたり神経の確認が求められている場面でそれを怠った場合など、手術に当たって通常行われるべき措置がなされていない場合には過失が認められやすいでしょう。
神経損傷が発生する率が高い手術を行い、その結果神経損傷が発生した場合、事前のそのリスクを適切に説明していたか、説明義務の観点から問題となります。
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