海難事故、船の労災(漁船の転覆等)における安全配慮義務違反(労災)

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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海難事故は死亡等重大な結果を招きうるものです。

ですから、船上で労働者を稼働させる使用者には厳しい安全配慮義務が課されます。

そして、その安全配慮義務に違反し、労働者に死傷の結果が生じた場合、使用者は損害賠償責任を負うことになります。

以下、海難事故をめぐる裁判例において、どのような場合に安全配慮義務違反が認められてきたか、みていきます。

目次

1 海難事故と海上保安庁への連絡義務

2 海難事故と錨泊義務
3 海難事故と救命胴衣の着用義務
4     構造上の欠陥のない船舶を航行の用に供すべき義務
5 技能を有する者を配置すべき義務
6 具体的な指導、訓練を行うべき義務

1 海難事故と海上保安庁への連絡義務

鳥取地方裁判所平成31年3月22日判決は、船長としては、自力航行不能となった場合において海上保安庁に救助を要請すべきであったのに、しなかったとして、安全配慮義務違反を認めました。

判決は、その前提として、「船長は、自船に急迫した危険があるときは、乗組員を含む人命の救助に必要な手段を尽くすべき任務を有する以上、自船に急迫した危険がある状況にあって、人命の救助に必要な手段を尽くさなかったと認められる場合には、当該人命との関係で、船長に求められる業務上必要な注意を怠ったものと認めざるを得ない」との判断を示しています。

また、判決は、船長としては、「取り得る選択肢が複数ある場合には、そのいずれをとるかは同船長の裁量の範囲内にゆだねられるべきであり、後方視的にみて、最良であったかどうかを問うことは許されない」とも述べています。

結論として、同判決は、海上保安庁への連絡は「容易かつ可能な手段」であった、「主機停止時点ないしその後まもなく、海上保安庁に通報し、その救助又は援助を要請していたとすれば、その状況に応じて、アグスタによる吊り上げ救助、巡視船の指示に基づく錨泊ないしその指示・援助を受けながらのえい航など、人命救助に向けた相当な手段がとられたものと認めることができる」として安全配慮義務違反を認めています。

2 海難事故と錨泊義務

鳥取地方裁判所平成31年3月22日判決は、投錨に特段の支障がなかったこと、錨泊をさせることが十分期待できる状況にあったとして、錨泊をさせなかったことについて安全配慮義務違反を認めています。

3 救命胴衣の着用義務

鳥取地方裁判所平成31年3月22日判決は、船に急迫した危険があったこと、救命胴衣の着用が落水した場合の生存可能性を高めることから、船長は乗組員に救命胴衣を着用させるべき義務を負っていたとしました。

それにも関わらずこれを怠ったとして安全配慮義務違反を認めています。

その上で、この義務違反の結果、乗組員の死亡という結果が生じたと認定しました。

危険と隣り合わせの漁などの場面において船長には高度な安全配慮義務が認められます。

その具体的内容を明らかにしたものとして、同判決は参考価値があるものと思われます。

宮崎地裁延岡支部平成20年9月19日判決も、漁ろう作業中に救命胴衣を着用させるべき安全配慮義務を認めています。参照:救命胴衣を着用させるべき安全配慮義務を認めた判決

4 構造上の欠陥のない船舶を航行の用に供する義務

横浜地裁平成7年5月24日判決は、ベーリング海での漁船の遭難事故に関し、「構造上の欠陥のない船舶を航行の用に供し、その整備を十全にして船舶本体から生ずる恐れのある危険を防止」することを安全配慮義務の内容としています。

5 技能を有する者を配置すべき義務

横浜地裁平成7年5月24日判決は、ベーリング海での漁船の遭難事故に関し、「資格、経験を有する船長など操船にあたりその任に適する技能を有する者を選任して各部署に適切に配置し、船舶の運行から生ずる危険を防止する義務」を認めています。

6 具体的な指導、訓練を行うべき義務

横浜地裁平成7年5月24日判決は、ベーリング海での漁船の遭難事故に関し、「予測される事故発生時に対処し得るよう非常時における部署配置を定め、救命筏の構造や取扱方法について、具体的資料を用意して周知徹底を図るとともに、筏の投下実技訓練を行い、また、筏の取扱担当者を決めてその都度講習を行わせるなど、平素から指導訓練を行い、その所有する船舶の乗組員の生命及び健康を保護するよう配慮すべき信義則上の義務」があるとしています。

当該事案では、裁判所は、非常事態についての事前の定めもなく、訓練もされなかったとして、安全配慮義務違反を認定しています。

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