航空機事故、飛行機事故と損害賠償 モントリオール条約・ワルソー条約等

交通事故

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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飛行機をめぐる事故が絶えません。

飛行機事故が起こった場合、乗客は航空会社等に損害賠償を請求できる可能性があります。

飛行機事故の場合、モントリオール条約等により規制される部分があり、通常の交通事故とはやや異質です。

以下、航空機事故の被害者代理人としての実績のある弁護士齋藤裕が解説します。

目次

1 国内線での事故と損害賠償

2 国際線での事故と損害賠償 モントリオール条約が適用される場合

3 国際線での事故と損害賠償 モントリオール条約が適用されない場合

4 航空機事故の損害額

5 航空機事故における原因究明方法

6 海外の航空会社に対する損害賠償請求

7 航空機事故の損害賠償責任についての裁判例

1 国内線での事故と損害賠償

商法が以下のように定めているため、国内線での事故の場合、航空会社において過失がなかったと立証できない限り、航空会社が損害賠償責任を負うことになります。

(運送人の責任)
第五百九十条運送人は、旅客が運送のために受けた損害を賠償する責任を負う。ただし、運送人が運送に関し注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
(特約禁止)
第五百九十一条旅客の生命又は身体の侵害による運送人の損害賠償の責任(運送の遅延を主たる原因とするものを除く。)を免除し、又は軽減する特約は、無効とする。
2前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一大規模な火災、震災その他の災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において運送を行うとき。
二運送に伴い通常生ずる振動その他の事情により生命又は身体に重大な危険が及ぶおそれがある者の運送を行うとき。

賠償額は交通事故等と同じ損害額となります。

2 国際線での事故と損害賠償 モントリオール条約が適用される場合

国際線での事故の場合、モントリオール条約が適用される場合とそれ以外とで責任のあり方が違います。

モントリオール条約は、飛行機事故における損害賠償等について定めた条約であり、令和6年12月時点で140ケ国が批准しているとされます。参照:航空:モントリオール条約に係る責任限度額の改正について – 国土交通省

出発地と到着地がモントリオール条約加盟国である場合の事故にモントリオール条約が適用されます。

モントリオール条約が適用されると、人身の損害賠償額は交通事故等と同じ損害賠償額となります。

また、人身損害のうち一定金額までは航空会社が無過失責任を負うことになります。

3 国際線での事故と損害賠償 モントリオール条約が適用されない場合

モントリオール条約が適用されず、ワルソー条約ヘーグ議定書が適用される国際線事故の場合、人身の損害額が16600SDRに限定されます。参照:SDRと円の対応関係

過失は推定されます。

賠償額が極端に低くなることに注意が必要です。

しかし、無謀かつ損害の生ずるおそれがあることを認識して行った行為により生じた損害については上限額がないとされます(条約25条。名古屋地裁平成16年5月27日判決)。

4 航空機事故の損害額

航空機事故で特に条約上制限がない場合の人身の損害額は、

ⅰ 死亡の場合の慰謝料2000~2800万円

ⅱ 後遺障害の場合の慰謝料110~2800万円

ⅲ 入院・通院期間に応じた慰謝料

ⅳ 死亡や後遺障害の場合に労働能力が失われたことについての逸失利益

ⅴ 症状固定までに給料等がもらえなくなったことについての休業損害等

ということになります。

5 航空機事故における原因究明方法

航空機事故については、航空会社などの法的責任を明らかにする上で、運輸安全委員会による報告書が極めて重要です。

航空法にもとづく調査結果について開示請求することも考えられます。

火災を伴う場合、あるいは救急搬送状況を知りたい場合は消防当局に対し開示請求をすることも考えられます。

航空会社等に直接問い合わせをしたり、同乗者等からの聞き取りを実施することもありえます。

これらの調査を弁護士に依頼することも可能です。

6 海外の航空会社に対する損害賠償請求

海外の航空会社に対し損害賠償請求をする場合、海外の裁判所に訴訟を提起しなければならないとすると、その負担は極めて重いものとなります。

日本の航空会社による事故について日本の裁判所で裁判を起こせることについて問題はありませんが、問題は外国の航空会社が海外で起こした事故について、日本の裁判所に裁判を起こすことができるかどうかです。

モントリオール条約と航空機事故の国際裁判管轄

モントリオール条約第三十三条2項は、「旅客の死亡又は傷害から生じた損害についての損害賠償の訴えは、1に規定する裁判所のほか、事故の発生の時に旅客が主要かつ恒常的な居住地を有していた締約国の領域における裁判所に提起することができる。ただし、関係する運送人が、自己の航空機により又は商業上の合意に基づき他の運送人が所有する航空機により当該締約国の領域との間で旅客の航空運送を行っており、及び当該関係する運送人が、自己又は商業上の合意の下にある他の運送人が賃借し又は所有する施設を利用して、当該締約国の領域内で旅客の航空運送業務を遂行している場合に限る。」としています。

ですから、モントリオール条約が適用される場合には、日本の市民は日本の裁判所で裁判を起こすことができる可能性があることになります。

マレーシア航空事故についての最高裁判決

なお、マレーシア航空事故についての最高裁昭和54年11月12日判決は、「わが国の領土の一部である土地に関する事件その他被告がわが国となんらかの法的関連を有する事件については、被告の国籍、所在のいかんを問わず、その者をわが国の裁判権に服させるのを相当とする場合のあることをも否定し難い」として、海外の航空会社についても日本の裁判所に裁判を起こすことができる余地を認めます。

そして、その基準については、「当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により条理にしたがつて決定するのが相当であり、わが民訴法の国内の土地管轄に関する規定、たとえば、被告の居所(民訴法二条)、法人その他の団体の事務所又は営業所(同四条)、義務履行地(同五条)、被告の財産所在地(同八条)、不法行為地(同一五条)、その他民訴法の規定する裁判籍のいずれかがわが国内にあるときは、これらに関する訴訟事件につき、被告をわが国の裁判権に服させるのが右条理に適
うものというべきである。」としました。参照:マレーシア航空事件についての最高裁判決

つまり、営業所などを国内に有する航空会社については日本に訴訟を提起できるとしました。

同最高裁判決後、民事訴訟法が改正され、国際裁判管轄についてのルールが整備されました。

条約が適用されない場合には改正後民訴法に照らして管轄を検討すべきことになります。

日本の裁判所に提訴できない場合には国外の裁判所に提訴するほかありませんが、その際に当事務所で海外での弁護士探し等についてアドバイスをすることも可能です。

航空事故についての旅行会社に対する訴訟

また、日本の旅行会社がその航空会社を手配した場合、その旅行会社に国内の裁判所で損害賠償請求することもありえます。

トルコでのバス事故について旅行会社の損害賠償責任が問われた事件についての東京地裁平成25年4月22日判決は、旅行会社には、

ⅰ 旅行の行程を設定するに当たり,旅行者の安全を確保することができるような旅行行程を設定し,ⅱ 旅行者が運送・宿泊サービスの提供を受けることができるように手配するに当たり,旅行者の安全を害するようなおそれのない者を選定し,

ⅲ 添乗員を同行させて行程を管理する義務を負う場合には,添乗員が安全に計画どおり旅行を実施できるように旅行行程を管理するに当たり,旅行者の安全を害するようなおそれが明らかであるときには,これに対処するための適切な措置を採るべき

義務を負うとしています。

これらの義務に違反した結果、航空機事故が発生したと言える場合には、国内の旅行会社に対し、国内の裁判所に訴訟を提起できることになります。

7 航空機事故の損害賠償責任についての裁判例

以下、航空機事故の責任についての裁判例をご紹介します。

低速での離陸等について機長の過失を認定した東京高裁令和3年10月13日判決

東京高裁令和3年10月13日判決は、小型飛行機の墜落事故について、以下のとおり述べ、機長において所定以下の速度で離陸し、かつ、過度な機首上げをしたという過失を認定しています。参照:低速での離陸等について機長の過失を認定した裁判例

「本件機長には,飛行規程において求められるリフトオフ速度未満の低速で離陸した上,離陸直後においても,速度の低下に対応することを優先して機首下げを行うことをせずに過度な機首上げによる上昇を継続させるという操縦を行った点について過失があった」

中華航空墜落事故について中華航空の損害賠償責任を認めた裁判例

名古屋地裁平成16年5月27日判決は、以下のとおり述べ、中華航空機の墜落事故について、中華航空側の損害賠償責任を認めました。参照:中華航空機の墜落事故について損害賠償責任を認めた裁判例

「副操縦士は,ゴー・アラウンド・モードでオートパイロットに接続中,オートパイロットに反して操縦輪を押す行為が,アウトオブトリム状態を招く危険な行為であることを運行マニュアルの記載やシミュレーター等によって知らされていたものと認められる。」にも関わらず、オートパイロットに反して操縦輪を押したとして中華航空に損害賠償責任を認めています。

ゴーアラウンドは着陸のやり直しです。

アウトオブリムとは、機体がコントロールできる範囲を超えて動いていることです。

運行マニュアル等の記載に反した操縦を行った場合には、損害賠償責任が認められやすくなります。

なお、同事件では、ワルソー条約により過失が推定され、その推定を覆す事情がないということで損害賠償責任が認められています。

8 航空機事故、飛行機事故のお悩みは弁護士齋藤裕にご相談ください

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