執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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ガス爆発が発生すると、労働者の生命に重大な損害を与えることになりかねません。
以下のとおり、使用者には、労働者の生命身体をガス爆発から守るための安全配慮義務が認められます。
目次
1 ガス爆発を発生させないようにする安全配慮義務
2 ガス爆発があっても重大な損害を被らないようにする安全配慮義務
1 ガス爆発を発生させないようにする安全配慮義務
ガス爆発を発生させないようにするための労働安全衛生規則上の義務
労働安全衛生規則は、ガス爆発を防止するための義務を多岐にわたり規定します。
代表的なものとしては、
・作業の指揮者を定め、指揮者に設備等について異常があった場合には必要な措置をとらせること
・ホースで注入するときにはホースの結合部を確実に締め付け、あるいははめ合わせること
・通風、換気等の措置を講ずること
というものがあります。
これらに違反した場合には安全配慮義務違反とされる可能性が高いでしょう。
ガス管などの近くで重機などガス漏洩を招きかねない工法での工事させない義務
また、ガス管の近くでの作業では、重機を使わないなどの措置をとる必要があります。
神戸地裁昭和61年10月30日判決は、地下埋設ガス管の近くにおいて重機で作業をしていたために、ガス管を破壊し、ガスが漏洩し、よって爆発が起こり、労働者が負傷したという事件について、直接雇用者のみならず、元請の損害賠償責任も認めています。
同判決は、直接雇用者についてはガス管が埋設されていた近辺において重機による作業を行うのをとめなかったことが安全配慮義務違反となるとしました。
元請事業者については、下請事業者に対し、ガス管が埋設されている近辺では重機による掘削を行わないよう指示をしなかったことが安全配慮義務違反となるとしました。
ガス管に限らず、ガスが含まれる施設の近くでは、それを破壊するリスクのある工法による工事は避止すべきですし、それにもかかわらずあえてそのような工法での工事を行い、事故が発生した場合、安全配慮義務違反として評価される可能性があります。
2 ガス爆発があっても重大な損害を被らないようにする安全配慮義務
大阪高裁平成6年4月28日判決は、ごみ処理プラントで発生した水素ガス爆発で労働者が転落した事故について、以下のとおり爆発が発生した場合でも重大な事態とならないよう、転落防止の措置を講ずるべきであったのに、これをとらなかったとして賠償義務を認めました。
「右踏み台と手摺りの上段との高低差は〇・五メートルしかないことになり、作業床が地上約七メートルの屋外にあること及び転落防止用のネットも張られていないことを考慮すると、同所で作業をしている被控訴人市の作業員が強固な灰ブリッジを崩すため力一杯鉄棒で突くなどの作業中、その反動とかもののはずみ、あるいは強風等の何らかの原因で踏み台の上で安定を失ったり、あるいはエアーブロー等の影響で灰バンカーの中から突然灰等が吹き上げるような事態が生じ、驚いて平衡を失ったりした場合に、当該作業員が手摺りを越えて地面に墜落する危険があることは、被控訴会社においても予見することができ、その防止のためには手摺りを高くするなどの措置を取ることは被控訴人市に対する義務の範囲に属しているのに、被控訴会社がこれをしなかった結果、控訴人保男の墜落が生じたものということができる。」
このように、ガス爆発を防止する義務のみならず、ガス爆発が発生した場合でも重大な損害を招かないようにする措置も義務付けられます。
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